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元ガリンペイロの追憶(上)=金脈巡り撃ち合いも=文字通り、死と背中合せ

2月18日(金)

 【ポルト・ヴェーリョ発=堀江剛史記者】アマゾンの照りつける太陽はサンパウロで慣れた肌には暴力的だ。ロンドニア州都・ポルト・ヴェーリョの一月下旬、午後三時。「今日はそんなに暑くないよ。マナウスなんてもっと凄いよ」。元ガリンペイロだったというT氏(57)の運転で市内の目抜き通り、セッチ・デ・セテンブロを走る。しっかりした運転技術だが、スピードと危険を楽しんでいるかのようなハンドルさばきである。突如、熱帯特有のスコールがフロントガラスを叩く。視界ゼロ。「こりゃダメだな。ちょっと、ジュースでも飲みましょうか」。T氏は叫ぶように言った。クプアスーとアサイーのジュースがテーブルの置かれて間もなく、T氏は問わず語りに話しだした。

 昔、ガリンポしてた、っていっても二年くらいだけどね。まあ、始めたきっかけっていうのは当時してた商売の取引先の人間が僕に借金しててね。そのかたにドラーガ、金のしゅんせつ船ね、六×十二メートルくらいのをくれたわけ。それがまあ、ガリンポやるきっかけ。
 その頃、金で沸いてたからね、この街。色んなところから人が入って来てて、活気はあったよね。もちろん、ガリンペイロなんかもヘッジかついでやってくるわけだ。まあ、そういう人間を「俺んとこで働かんか」って雇うんだよね。だから、僕らはポルト・ヴェーリョで人探しして、自分のところへ連れていくの。
 僕がやってたのは、マデイラ川なんだけど、そうね、ここから二百五十キロくらい上流のところ。
 川からどうやって金をとるかというとね。メルグリャドール、潜水夫ね。彼らに空気管咥えさせて、命綱つけて潜らせるわけ、船から。一抱えあるような給水管に抱きつかせてね。
 それで川の下には泥、土砂っていうかね、が溜まってるでしょ、それをね、潜水夫が重し役になって、給水管で吸い上げる。まあ、五メートル下くらいに砂利があってその下に金脈があるのよ。で、潜水夫は給水管を少しずつ動かしながら移動していく。で、僕らは船上で板の上に毛布広げてね。給水管から出る土砂やをそれで受けるわけ。
 金が出るとね、ほんと毛布が、そうね、(記者のノートの表紙を指しながら)この位、まっ黄色になる。で、その毛布が黄色の毛布になったら、エンジンを止めて、毛布を取り替えるの。でないと金がもったいないでしょ。
 その作業をしてるとね、ほら、エンジンが止まるから、周りの船の連中も「あっ出てる」って分かるから、船で体当たりしてくるの。まあ、分捕ろうって魂胆ね。僕は機関銃で武装してるのが知られたから大丈夫だったけど、二、三回それが原因の撃ち合いなんかも見たよね。
 大きな金脈が見つかると船がほんと歩いて川の向こう岸に渡れるくらい集まっちゃうわけ。船の橋。で、川岸には街ができるんだよね。クルテイラっていうガリンペイロの宿場町。食堂から、宿泊所から売店、女郎屋まであるの。
 金が出るところを移動する町なんだけど、そこでの売り買いはお金じゃなくて、全部金でやりとりするの。だから、腰のベルトに小さな砂金の袋をいくつもぶら下げて歩くわけね。
 この潜水夫の仕事っていうのは本当に危険ね。だって、いつ土砂が崩れ落ちてくるか分からないでしょ。泥で何も見えないわけだし。僕なんか川に入るのも怖い(笑)。
 だから、常に土砂の面を背中に当ててね、崩れてくる感覚があれば、命綱を引っ張って知らせるわけ。それを船の上の人間が引っ張るんだけど、空気管とか命綱が絡まってて、上がらない時があるわけ。そうなると、もう終わり。土砂に埋もれておしまい。
 で、すぐその綱とかを全部切っちゃう。なんでかっていうとね、船も川にゆっくり流されてるから、そのままにしておくと(潜水夫が錨の役割をして)船がひっくり返っちゃう。するとこっちが危ない。
 だから、いっぱいそういう潜水夫の死体が川底にあるわけだけど、それが作業してると、よくプカーと浮かんでくるんだよね。そうそう、他の日本人がやってた船ね。十六人死んだよ。十六人。で、連邦警察に疑われてね。分け前やりたくないから、殺してるんだろうってことで。操業停止になっただけだけど、結局。僕?僕の船では幸い人が死ぬってことはなかったね。

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