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日中米で深まる相互依存=朝日新聞米国総局長=西村陽一氏が講演

3月24日(木)

 朝日新聞社アメリカ総局長の西村陽一氏が二十一日、サンパウロ市のカトリク大学(PUC)で講演し、中国の台頭を踏まえ、日米中三カ国の間で深まる相互依存について解説した。変貌を遂げる「アジアの光景」を描写し、「中長期的な経済相互依存は文化的感情的な摩擦を起こしやすいが、相互信頼の大切さを再確認する好機も提供している」との考えを述べた。
 講演のはじめ、西村氏は「中国がアジアの多国間機構に対する外交的、経済的なイニシアチブをとり始めている」と指摘。イラクやアフガニスタン問題に忙殺されているうちに、中国主導の多国間外交によって、アジアでの動きを縛られるのではとの懸念が米国に広がっていると報告した。
 ガリバーがこびとの国に行き、体をがんじがらめにされた話と重ね、「中国のガリバー戦略」と、米国には映っていると語った。
 また、北朝鮮の核問題に絡み、中国は自分の役割を「仲介者」とみなしているのに対し、米国は中国を外交劇の「主人公」と考えている点で、「意思の疎通が欠如」していると指摘。
 さらに、中国は朝鮮半島の非核化と北朝鮮の独裁体制維持が目標だが、米国のそれは専制体制の変更で、「潜在的な溝」が両国間にあるとも述べた。
 また、焦点の中国の軍事増強に関して、台湾寄りの姿勢を示していた米国が、対テロ戦争や北朝鮮の核問題をめぐる六者協議の中で、中国の役割が重要になってきていることを背景に、中国と台湾の中間に姿勢をシフト。ブッシュ第二次政権の発足後は、「台湾の独立の動きを強めないようけん制しながらも、軍備増強批判にやや重心を置き始めている」と分析した。
 日米関係については、小泉政権がアフガニスタンとイラクの戦争で打ち出した政治・軍事的な対米協調路線に言及。「アジア太平洋における同盟関係の枠を超え、日米同盟がグローバル化の過程を歩み始めている」と強調。「日米の政治家の間では『日本が普通の国になる過程』と称されている」とも述べた。
 一方、今後は中国の存在が「日米安保同盟の行方と存在意義に重要な役割を占める」と明言した。「さきの安保協議でも、共通戦略目標の中に、朝鮮半島だけでなく、中台関係が初めて盛り込まれた」と語った。
 日中関係では、昨年中国が米国に代わって日本の最大の貿易相手国になったものの、地政学的な緊張が高まっている「政冷経熱」現象を説明。アジアカップの際の、中国のサッカーファンによる反日暴動などを受け、「昨年十二月に政府が行なった調査で、中国に親近感を覚える人が三七・六%と、前年より約一〇ポイント落ちた」と、日本人の中国に対する世論にも変化が見られると述べた。
 加えて、領土問題が絡む資源争いが起きているとも指摘。排他的経済水域の意見の齟齬に起因する、東シナ海でのガス田開発をめぐる紛争をその例に挙げた。
 さらに、日中国交正常化以来の友好の象徴であった途上国開発援助(ODA)について、中国には既に必要なくなったとする「卒業問題」が「日中関係をより冷え込ませる政治問題になっている」と語った
 日中関係の将来像に関しては、「予測は難しい。なぜなら、両国が同時代に、ともに大国としてパワーを持つ、というのは歴史的にまれだ」。国交正常化のころの、日中友好人脈の大半が死去あるいは引退している世代交代も、事態を困難していると示唆した。
 気がかりなことしては、「中国で反日感情が政治問題の閉塞状況のガス抜きに利用されたり、日本で中国を感情的標的としやすい風潮を政治的に利用する動きが起きたりすることだ」と述べた。
 この日の講演はサンパウロ総領事館などが主催。カトリック大学で国際関係を学ぶ生徒を中心に約三百人が集まった。ベネズエラ総領事を始め、ハンガリー、メキシコの領事館や、ロシア商工会議所の代表も来場。アジア情勢への関心の高さをうかがわせた。
 西村氏は一九五八年生まれ。東大卒。五年間のモスクワ支局勤務などを経て、二〇〇二年から現職。主な著書に『プロメテウスの墓場―ロシア軍と核のゆくえ―』(小学館)がある。

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