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デカセギ教育問題=NPOベースで解決へ=大統領訪日で高まる期待

5月17日(火)

 ポ語教師や相談員などのブラジル人専門家を毎年二百人ずつ五年間、日本へ派遣するなどのデカセギ子弟の教育問題対策が、ルーラ大統領訪日を機に検討が進められている。昨年九月、小泉首相来伯時の首脳会談時に打ち出された共同声明では、今後五年間に一千人の招請をする旨明記されており、今回の訪日ではそれを具体化した方策がブラジル側から提案される見通しだ。
 昨年九月十六日にブラジリアで発表された共同声明の第十二項には、「日本国総理大臣は、将来の二国間関係において若い世代が果たす重要な役割を考慮しつつ、ブラジルから様々な交流スキームの下で今後五年間で一千人を越えるブラジル人学生及び青年を招請する旨表明し、ブラジル連邦共和国大統領はこれを歓迎した」とある。
 最終調整のために九日に日本へ向かった山中イジドロ農務大臣特別補佐官は、訪日前に本紙の取材に答え、「昨年、小泉首相がオファー(提案)してくれたことに対して、大統領が返事を持っていき、共同声明として発表されるでしょう」と語った。特にデカセギ問題に関しては、「文協が作ったISECのアイデアをもとに、日本のブラジル人子弟の教育問題への提案を検討している」と明かした。
 ISECは、文協が中心になって〇三年暮れに創立したデカセギ支援団体で文化教育連帯協会の略。在日ブラジル人学校ピタゴラス校の顧問も務めた山中氏は、デカセギ子弟の教育問題にも詳しい。
 これは〇二年八月に行われた日伯デカセギ問題シンポジウムが出したサンパウロ宣言に基づいて、ISECが検討してきたアイデア。日本側でブラジル人を支援する有志にお願いして、日系子弟向けの学校を教育NPO(非政府団体)の形で各地に設立してもらい、そこへブラジルから教師派遣、教材寄贈などをする計画だ。
 山中特別補佐官は、「現在、日本にはブラジル人学校が五十九校活動しているが、法律上、有限会社の登録しかできないので、行政からの支援が受けられない。その結果、高額な授業料になる。これをNPOの形にすれば、教育委員会などからの援助が受けられるようになる。受入れ先が利益を目的としないNPOなら、ブラジル教育省などからの教師派遣、教材支援も可能になる」と説明した。
 ISECの吉岡黎明会長によれば、この教師派遣に関して、日本政府が行っているJETプログラムか、それに類似したシステムを活用することが検討されているという。
 「語学指導を行う外国青年招致事業」(JETプログラム)とは総務省、外務省、文部科学省や自治体国際化協会の協力により、一九八七年から地方自治体が実施している事業。
 〇四年は四十一カ国から約六千人が英語教師として招請されているが、ブラジルからは十人にも満たないのが現状だ。「現在のJETでブラジルから行く場合、日本語検定一級が求められるなど敷居が高い。ただし、英語教師にはそのような制限がないと聞く。毎年二百人を送るならば、英語教師のような条件にするか、別のプログラムにする方がいいかもしれない」との考えを述べた。
 吉岡会長によれば、九日にサンパウロ市に立ち寄った山中特別補佐官は、ISECの提案書を持って訪日した。同ISECは今年一月に正式に団体登録を終え、現在はNPO登録を進めている。
 日本側では、かつて駐伯経験のある外交官や企業関係者などが中心になって、ブラジル人を支援するようなNPOを立ち上げる話が実際に進んでいる。今回の大統領の訪日を機に、日伯のNPOベースでデカセギ問題解決へ向けて大きな進展が期待されそうだ。

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