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コラム 樹海

 子規の句に「梨むくや甘き雫(しずく)の刃を垂るる」がある。秋の句だが、日本の梨は甘みが多くみずみずしくて歯ごたえがいい。玉が大きくて―ガブリと噛み付いたときの水っぽい甘さ。あの味が舌に吸い込まれる一瞬の喜びと楽しさは忘れ難い。今は種類も多くなったのだろうが、我々が日本にいた頃は赤梨の「長十郎」と青い系統では「二十世紀」がみんなに好まれた▼ところがブラジルには、こんなに美味な梨はない。あるのは洋梨だけであり、あまりうまくもない。梶本北民さんが編纂した「ブラジル季寄せ」にも「この国の梨は、改良途上にある西洋梨の系統で味は輸入品に落ちる」とある。確かに、この通りなのだが今は立派な梨が舌を豊かにし「口福」に酔い痴れることができる。S・Mアルカンジョやサ・カタリーナ州などの日系人が栽培する「豊水」と「幸水」である▼街の店で見かけるようになってもう10年近くになろうが、初めの頃はかなり高かったように覚えている。それが今年は安いしガ・ブエノ街の店屋にもいかにも無造作に並べられている。難を申せば、梨の姿と形がいささか乱暴すぎる。あれは剪定や手入れが難しいのだろうが―ここはブラジル。何よりも「美味」が命なのだから冷蔵庫で冷たくして大いに食べまくりたい▼それにしても、リンゴの「富士」もあり日本の「梨」もあるし今は「富有柿」が盛りである。日本人移民の苦労は多かったけれどもここまで味覚の贅沢ができる。もう一つ欲しいなと思うのは「桃」なのだが、あの豊潤な味わいの快楽は格別でブラジル人も必ずや飛びつくのだが―。    (遯)

 05/5/24

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