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外国人と共に生きる―広島県備後地方の現状―

6月29日(水)

 広島県東部にある福山市松永地区でブラジル人対象の日本語教室「まつなが日本語教室」が先月七日、産声を上げた。立ち上げたのは、地元ボランティアグループ「ワールドシップ~外国人と共に生きるネットワーク~」(田中真佐子事務局長)。地元ボランティアたちの取り組みと、同地方における外国人支援に対する状況を報告する。
日本語教室に反響
 福山市の西部に位置する松永地区。その中心にある今津公民館で毎週土曜日午後七時半から、ブラジル人たちが日本語を学んでいる。
 現在、四十三人いる学習者の主な出身地はサンパウロ州。パラナやマットグロッソなどの各州、ペルーからの学習者もいる。
 彼らの多くの日本滞在歴は半年から二年と短く、「隣に住む日本人とどう挨拶していいかも分からなかった」とある学習者が言うように、「高い、安い、会社、疲れた」といった程度の日本語しか話せない。
 五月七日、二十人の参加者で始まった「まつなが日本語教室」の授業は、ボランティアの家族が作った柏餅を食べ、色紙などで鯉のぼりなどを作るなど、日本文化を取り込んだものとなった。
 「しかし、十人のボランティアのほとんどが、ブラジル人と接するのも始めてで、学習者も日常会話ができず、基本的なひらがな、カタカナも読めないため、お互いの言葉で話すしかないという混乱した状況での幕開けだった」と田中事務局長は振り返る。
 しかし、口コミで広がったのか、二回目の授業には、さらに二十人が一時間前から並んで待つといった予想外の反応を受け、急遽、田中事務局長も授業を担当、さらにボランティアを募集するなどといった対応に追われている。
 ――手作り教材で対応―― 
 松永地区は元来、下駄の製造が盛んな地域で、九〇年代前半には、製材、縫製業に従事するブラジル人が五百人ほど居住していた。 九四年、愛知県豊田市に本社を置く派遣会社の尾道事業所開設に伴い、ブラジル人登録者が急増、現在福山市におけるブラジル人登録者数は、全体の外国人登録者数五千五百人の約二割を占める九百六十人となっている。
 多くのブラジル人労働者は、隣接する尾道市のパソコンや携帯電話の液晶画面を製造する工場で就業しているが、そのうち九割が松永地区に居住している。
 その理由として、「同地にある福山大学の学生用ワンルームマンションが多くあり、若いカップルで就業するブラジル人の入居に最適だったという理由が考えられる」(田中事務局長)
 今回、ボランティアとして参加した十人の半数は、元高校教諭。二、三十代の女性なども仕事の傍ら、日本語の指導に取り組む。
 リーダーの一人、児玉戒三(かいぞう・60)さんは、定時制高校を退職した元教諭。在日コリアンなど外国人生徒とその人生を歩んできた。
 「自分の住んでいる地域にはブラジル人住民が多く、日本語が理解できないことで、様々な困難を抱えていることを知っていた」と参加の動機を話す。
 初級者向けの教科書、絵やカードなどは全て手作りのものを利用している。
 田中事務局長は、「中級レベルになれば、専門分野教科書も使っていきたい。とりあえずはサバイバル日本語を覚えてほしい」と、三回目の授業では、自分の住所や電話番号を伝える練習、救急車、消防車の呼び方などを取り上げた。
 ――「行政支援乏しい」――
 ワールドシップは、広島県東部、岡山県西部の「備後地区」を中心に外国籍住民の自立を支援するため、九四年に発足している。
 それまでは「アジア人労働者と連帯する会」という名称で、カトリック教会やプロテスタントの教会関係者、市民運動関係者が中心になって、アジア人労働者の人権を擁護するために活動していたが、九〇年の入国管理法改定以来、「アジア人」という枠では収まらなくなり、名称を変更して再発足した。
 その間、備後地方で十六歳のブラジル人少年が喘息の発作を起こしたのに、救急車を呼べずに病院の玄関で亡くなるという事件を機に、福山市に外国人相談窓口の設置や、多言語での広報を発行するように要望を重ねてきた。
 その後、九二年にその要望が実現、田中事務局長は以来、外国人相談員としての仕事を始めた。
 相談内容の多くが、日本語が理解できないことに起因しており、「自立を支援するためには、相談を受ける活動とは別に、日本語習得を支援する場が必要であると認識した」という田中事務局長。日本語教室や指導にあたるボランティア養成講座開設にも携わってきた。
 「まつなが日本語学校」への行政の対応について、「残念ながら、福山市は行政による日本語習得支援が乏しい自治体」と現状を説明する。教室となる会場を無料使用できる以外は、行政からの支援を受けていない。
 ワールドシップとしては、松永地区における日本語教室の増設を要望しており、現在、市の社会教育振興課が「日本語教室ボランティア養成講座」を同地区で開催するための働きかけをしているという。
 養成講座の実施後、「誰が日本語教室開設をコーディネートしていくかが大きなポイント」と今後の課題を指摘する田中事務局長だが、「ワールドシップのノウハウや人脈が生かせるのでは」と強調する。
 なお、昨年五月二十九、三十の両日、福山市において「第五回移住労働者と連帯する全国フォーラム」を開催、全国規模のネットワーク作りを提起し、その場で「多文化ネット・中四国」というネットワークを立ち上げるなど、一連の活動に弾みを付けている。
 「まつなが日本語教室」の今後の活動として、花見、浴衣パーティー、ボーリング大会、クリスマスパーティーなどのイベントも予定されており、交流も含めた一層の充実を図る考えだ。

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