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特別寄稿=資料館会議に参加して=バストス資料館=JICA青年ボランティア=中村茂生=連載(下)=情報交換より深く活発に

2005年12月09日(金)

 会議中でのやり取りや雑談のなかで、いくつかの課題も浮かび上がった。そのなかには、館の維持費捻出の困難など、共通する大きな問題があるが、ここではバストス史料館学芸員として関心をひかれたものに限り、個人的な意見を交えて触れることにする。
 まず、所蔵資料の台帳が十分整備されていない資料館が多いという問題がある。これは、本来であれば受け入れ順にきちんと記載してさえいれば起きない問題であるはずだが、担当者の変更で混乱したり、あるいはデータの入ったパソコンがそのまま盗難にあったりという要因でそんな現状になってしまったものだ。 私がバストス史料館で最低限果たさなければならない仕事も、この基本台帳作りである。今回、この点を解決済みのサンパウロの史料館から、データベースのシステムを提供する案が出された。
 それぞれに特色あるコレクションを持っているとはいっても趣旨を同じくする資料館であり、同じシステムを使用する利点は少なくない。台帳作成が進むと同時に、ブラジル移民関係資料の横断検索なども容易になれば、移民史研究に裨益するところも大きいだろう。具体化に向けた話し合いをしたい。
 バストス史料館がすすめている所蔵写真のWEB公開については、必ずしも全面的な賛同は得られなかった。問題とされたのは、写真の無断使用によって蒙る館の損失である。バストス史料館では、電子透かしをいれるなどの対策も立てた上で、防ぎきれない不正使用による損失よりも、情報収集や関心の喚起など、史料の公開によって得られる利点をより重視している。 しかし、写真の場合同一プリントが複数の館に所蔵されていることもあり、他館の理解を得た上で公開を進める必要を感じている。
 資料館が協力し合って本を出版する可能性についても話題がでた。例にあがったのは、各館の所蔵写真を集めた移民史写真集である。それ自体興味深い企画だし、各資料館がひとつの事業に取り組むという意味でも価値のあることであろう。
 執筆者の確保という大きな問題もあるが、将来は合同で資料館研究紀要のようなものを定期的に発刊することも考えられるのではないだろうか。
 前回も触れたが、大浦氏によって提案された資料館連合会の設立は、私には大変意義深いことのように思える。今回行ったささやかな情報交換だけでも、館の運営方法などの点でバストス史料館にとって貴重であった。
 各資料館がネットワーク化されれば、情報交換はより深く、活発に行われるだろう。専従の専門家を雇う余裕のない地方の資料館にとって、直面するさまざまな問題を解決するためには、是非あってほしい組織である。
 現在計画中の資料館にとっても、役立つ情報が提供できるはずである。これもまた大浦氏の言葉にあった、「将来、連合会を主体に資料館の専門家や歴史研究者を受け入れることも可能ではないか」という件も是非検討して欲しい。
 バストス史料館の抱えている課題のひとつは、研究機関としての役割を果たせていないことであるが、それが実現すれば展望が開けてくる。
 会議の最後に、全伯の日本人移民関係資料館、資料室のリストを、計画中のものも含めて作成しようということになった。準備が出来次第新聞等を通じて呼びかける予定である。関係者の協力が幅広く得られることを期待したい。(おわり)

■特別寄稿=史料館会議に参加して=バストス史料館=JICA青年ボランティア=中村茂生=連載(上)=横のつながりの意義確認

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