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強盗殺人、死亡事故……=罪犯し帰伯するデカセギ=年々増加、5年で231人=引渡し協定なし=通常の生活送る

2005年12月21日(水)

 【既報関連】ブラジルは安全な逃亡先?――。静岡県浜松市の日本人レストラン経営者が十一月、店内で殺害された事件で捜査本部は日系ブラジル人男性が事件との関連性が強いと判断、日本全国に指名手配した。この男性は四日後の二十六日、ブラジルへ出国した。静岡県湖西市で起きた自動車事故の加害者フジモト・パトリシア容疑者(31)も事故の六日後に帰伯した(本紙十六日付で既報)。〇四年度版『犯罪情勢』(警視庁)によれば、昨年だけで日本から国外逃亡したブラジル人被疑者は七一人にのぼる。五年間では計二三一人にもなり、増加傾向にある。犯人引渡しに関係する法律の現状と課題を調べてみた。
 静岡県警の調べでは、被害者の三上要さん(57)は十一月二十二日の午前三時ごろ、首を圧迫され窒息死した。後ろ手に縛られ店内に倒れているのを被害者の妻が発見した。
 レジからは四万五千円が奪われており、県警では、犯行直前まで店内にいた日系ブラジル人のアルヴァレンガ・ウンベルト・ジョゼ・ハジメ容疑者(34)の犯行との見方を強めた。店内にあった指紋がレストランの駐車場にあった容疑者の車と一致、強盗殺人容疑で逮捕状を請求した。
 しかし、二十六日に同容疑者は中部国際空港(愛知)から帰伯。同捜査本部は国際刑事警察機構(ICPO)を通じて国際手配、捜査協力を求める方針だと報道された。
 十一月の山岡理子ちゃん(2歳)が交通事故で亡くなった事件でも、フジモト・パトリシア容疑者は事件の六日後に出国、サンパウロ市内に潜伏している可能性がある。身柄引渡しに関する条約が結ばれていない日伯の間で、理子ちゃんの両親は、ぶつけようのない怒りと悲しみにくれている。
 日本が犯罪引渡し協定を結んでいるのは、米国と韓国のみ。日本から捜査員がきても、罪を償うため日本へ帰国するよう説得することはできても、何ら強制力を持たないのが現状だ。
 九九年にも同様の事件が起きている。静岡新聞によれば、同年七月二十六日、浜松市内の国道で近所に住む十六歳の女子高生が引き逃げされ、死亡した。
 浜松東署は捜査員四十人を動員、二週間という外国人犯罪としては異例のスピード捜査でヒガキ・ミルトン・ノボル容疑者(28=当時)を割り出したが、事故の四日後にはブラジルへ出国していた。容疑者は結婚、サンパウロ市内で安穏な生活を送っているという。
 ICPOの要請を受け、行われたブラジル側警察の取り調べで本人は容疑事実を認めた。県警は家族、知人などを通じて、日本へ帰国、罪を償うよう説得したというが、「今はコンピューターの専門学校へ通っていて子供も生まれたばかり。(逮捕は)恐いので帰りたくない」と話したという。
 このような事例は、実は氷山の一角にすぎない。

◇逃亡者数、中国人に次ぐ◇

 デカセギ問題に詳しい弁護士、佐々木リカルドさんよれば、ブラジル国憲法五条第五十一項には、政府はブラジル民を他国政府に引渡すことはできないとある。引渡し可能な例外は、国際麻薬取引き犯のみだ。
 ただし、「日本に引渡すことはできなくても、関係書類を翻訳して正式に日本の警察から要請されれば、ブラジルの法律を適用して容疑者を取り調べ、逮捕をすることは可能です」と説明する。
 つまり法律上では、ブラジル人による日本での犯罪に対して、ブラジル刑法で罰し、ブラジル内の刑務所に入れることができるという。
 〇四年度版『犯罪情勢』によれば、昨年一年間で国外逃亡したブラジル人は七一人。〇三年=五六人、〇二年=三九人、〇一年=三八人、〇〇年=二七人と増加。この五年間の総計は二三一人にもなる。
 昨年国外逃亡した外国人は計五九〇人おり、最多の中国人(二八三人)についでブラジル人は二位(12%)となっている。
 推定逃亡先国でも同様に、中国(一三八人)についでブラジル(四七人)となっている。ブラジル人被疑者の多くが帰伯、通常の生活を送っているようだ。罪種別にみると凶悪犯が最も多く、つづいて窃盗犯、知能犯となっている。
 すでに数百人のデカセギが帰伯逃亡しており、さらに増加傾向にある現状に関して、佐々木さんは「なんらかの対策を考えていかないと」と問題提起した。

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