ホーム | 日系社会ニュース | 僧侶人生、違和感払拭=移民一世との出会い=「南米で精神的に成長する機会与えられた」=今ブエノスで仏事手伝い=順覚寺(広島)の長男、楢崎さん

僧侶人生、違和感払拭=移民一世との出会い=「南米で精神的に成長する機会与えられた」=今ブエノスで仏事手伝い=順覚寺(広島)の長男、楢崎さん

2006年3月9日(木)

 「南米に来ていなかったら、自分の職業に疑問を持ち続けていたと思う」――のんびりした雰囲気と穏やかな表情が坊主頭によく似合う。僧侶・楢崎一大さん(広島県出身、30)は現在、アルゼンチンのブエノス・アイレス仏教会で仏事や催事などを手伝っている。希望者にお経の読み方を指導、仏教講座も開く。「何の経験もないまま広島で坊主をすることに違和感を覚えた」。日本を離れ、アルゼンチンにいる理由をそう話す。
     ■ 
 楢崎さんは約五百年続く由緒ある寺院、順覚寺(広島県安佐北区)の長男。幼いころから、後継ぎとして育てられ、市内の宗門中学、高校に通い、京都の龍谷大学を卒業した。
 僧侶としてのスキルアップを目指し、総合的な仏教知識を学ぶ中央仏教学院に学び、お経の専門学校、勤式指導所でブラジル人二世やアメリカに移住した一世と出会う。
 「海外布教や日本以外に門徒がいることをそのとき初めて知った」。
 法話など説教を専門に指導する伝道院で、講師をしていた高田慈昭師(元南米開教区総長)から、「南米の門徒はまだ日本語を必要としている」と聞いたことから興味を持った。
 二〇〇〇年に初めての海外旅行。迷わず南米を選んだ。学生時代の友人がいたこともあり、ブエノス・アイレス仏教会を訪れた。
 楢崎さんによれば、同仏教会の寺院が現在の場所に建設されたのは一九八二年。信仰の篤い移民一世有志が私財を投げ打って建立したと聞き、感銘を受けたという。
 寺の出発点を知っている人たちがいる――。二十数代も続く寺で生まれ育った楢崎さんには、そんな人達との出会い全てが新鮮で刺激的だった。
 「法話を行うこと、法名(戒名)をつけたのもブエノスが初めて。自分の存在を喜んでくれ、自分を求めてくれたところだった」。
 帰国後、間もなくブエノスで世話になった女性の訃報に接する。
 「一期一会を実感した。精神的に僧侶になる機会を与えてくれた場所と向き合いたいと思った」。浄土真宗の僧侶として最高の教育を受けたといえる楢崎さんだが、移民一世との出会いが何かを変えた。
 〇二年にサンパウロで開催された世界仏教婦人大会に参加し、再度ブエノスを訪れた。三度目の今回、昨年十一月から約半年の予定で滞在。寺に生まれた運命を受け止め、仏教についての思いを強くしているという。
 「日本で寺の必要性が無くなることはまだないだろうけど、アルゼンチンでは近い将来あり得る。色んなことを勉強させてもらっています」。
 今年二月、目の手術が目的でブラジルを訪れた。幼い頃から悪かった視力が格段に良くなった楢崎さん。
 「本当は目に見えるものより、見えないもの方が大事なんですけどね」。そう茶化して笑った。

image_print