岩手県人会ニュース(五月号)は、さきにウクライナから岩手県洋野町(旧大野村)に六十三年ぶりに里帰りした元日本兵・上野石之助さん(83)を紹介した。故郷を去る上野さんに対し「お元気で!」と呼びかけていた。どこに住んで居ても同朋だという気持の表れか、県人会員に勧誘せんばかりの扱いであった▼同県人会は、日本で賛助会員を増やし続けており、たとえどこに住んでいても、当人にその意思があれば、迎え入れるようである。ウクライナ在住者とて例外ではないのである▼ニュースには上野さんの顔写真も掲載されていた。「南部の人」は、当たりは柔らかく、やさしいが、芯(しん)は強い。上野さんは典型的な南部人らしい。共同通信で伝えられたように、陸軍兵士として二十歳で樺太(からふと)で終戦を迎え、そのまま六十三年間帰国できなかった。「ソ連のせいだ」と言った▼ウクライナで結婚、家庭を営んでおり、日本語はすっかり忘れていた。里帰りし、故郷で親の墓に参り、肉親や親戚の温かいもてなしを受け、少しずつ会話が戻ったという。帰国の際、日本語を勉強したいと本を持ち帰った。さらに戸籍を回復する手続きを行った▼県人会ニュースはこうした動きを伝えたが、県人会員に勧誘したいと表明したわけではない。ただ、日本語を再勉強し、戸籍を回復して、岩手県人になる、と書いたあたりに、県人会の意向が読み取れるのである。世界中に会員をこしらえても不思議ではない県人会だ。(神)
06/05/24