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◇コラム 樹海

 ブラジルは春。このところ三寒四温の日々が続いたりしたが、もう暖かさがやってくる。サンパウロ州奥地では蝉が群れ始めているし都会の路次にも草花が咲き緑も濃くなっていく。日本なら芹・ナズナ・五形・ハコベラ・仏の座・スズナ・スズシロと七種を摘む楽しみもあるのだが、この国ではそんな風流もないらしい。正月の7日には、この春の恵みを刻んで粥に入れ新春の喜びを祝う▼こんなよき風習も近ごろは段々と廃れて行く。七種粥を造るときに歌う「七種ナズナ唐土の鳥が日本の」は、もうすっかり忘れ去られたのではないか。いささか寂しい気がするけれども、最近は20代女性の半数が「秋の七草」を知らない。萩・オバ・オギ・撫子・女郎花・フジバカマ・桔梗という草の名ではなく、「秋の七草」という言葉が解らないのだから―話にもならぬ▼さすがに50代女性になると、七草のすべてを知っている人が30%になり「半数は知る」が35%になる。これは、小さい子どもの頃に覚えたものだろうし、万葉集の憶良が詠んだ歌から取ったという七草を母や祖母らから学んだのに違いない。だが、時代は移り「コメは何処で栽培」と問われた児童がためらわずに「ス―パ―」と答えるそうである▼戦後にも農村には農繁休暇があって田植えで忙しいときには、小学生も田んぼに入って手助けした。今は、そんな休みはないし、すべての物が百貨店とス―パ―で「つくられる」と思い込む弊害に陥っているとすれば、これは恐い。それにしても、若い人が秋の七草をも知らないのはいささか侘しくも哀しい。(遯)

2006/10/26

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