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◇コラム 樹海

 日系ブラジル二世が主人公のサスペンス小説『ワイルド・ソウル』(垣根涼介著、幻冬舎文庫)の映画化が日本で発表になった。これは〇三年に大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を受賞、史上初の三冠という栄誉に輝いた。移民百周年公開に向け、来年からブラジルロケもする予定というから楽しみだ▼同著は日本の棄民政策に復讐する日系人を描いた奇想天外なストーリーだが、ドミニカ問題で政府が非を認めた後だけに〃お墨付き〃を得て説得力を増している▼ここ十年、とくに日系人が主役の小説は頻繁に刊行されるようになった。その嚆矢は、八四年に出版された『山猫の夏』(船戸与一、講談社文庫)だろう。あの頃は一世が主人公だった。最近の特徴は、南米の国際的裏社会に通じた二世が主役で、強烈な被差別感情とアイデンティティの迷いを抱えていることだろう▼九〇年からデカセギブームが始まり、九五年頃から彼らの犯罪が日本で問題にされるようになったのと、この傾向が機を一にしている点が興味深い▼九八年に第一回大藪春彦賞を受賞した馳星周の『漂流街』(徳間書店文庫)は〇〇年に映画化された。元パウリスタ新聞記者の麻野涼による『天皇の船』(文藝春秋、〇〇年)、『国籍不明』(講談社、〇三年、上下刊)、最新作『闇の墓碑銘』(徳間書店、〇六年)は元移住者ゆえに独特の深みがあり読み応えが違う▼あまりにカッコよい日系人ばかり描かれても尻のあたりがむず痒くなるが、かといって意味もなく暴力を振るう役も味気ない。日系のイメージを一新させる新作を期待したい。(深)

2006/07/27

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