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「姿三四郎」ポ語出版へ=嘉納氏の教えブラジルに=基金が助成、来年9月販売=「愛好家のバイブルに」

2006年11月2日付け

 全伯講道館柔道有段者会(岡野脩平会長)は国際交流基金の協力のもと、日本人移住百周年の記念事業として、明治時代の柔道家の人生を描いた『姿三四郎』(富田常雄著、フィクション)のポルトガル語訳を出版する準備を進めている。
 日本の講道館創立者である嘉納治五郎師範の理念や、柔道を通した日本の伝統文化をブラジルの一般の人たちにわかりやすく伝え、日伯の親善・友好に役立てるのが目的。十年前から企画していた。
 岡野会長の話によれば、ブラジル柔道の関係者は「柔道の修業を通じて身体精神を鍛錬、修養し、己を完成して世の補益とする」という嘉納師範の教えを、長年にわたりブラジルで広めてきた。
 しかし近年のブラジルでは柔道ではなく柔術を習うものが増えているなど、身体の鍛錬とともに精神修養を目指す「道」そのものの意味を問い直す時期に来ているという。
 この点を踏まえて「今一度柔道とは何かを知る上で同書が果たす役割は大きい」「ブラジルをはじめ南米中の柔道愛好家のバイブルとなってほしい」と力をこめる。
 この他にも、日本が近代国家として生まれ変わった明治時代の文化的背景を理解することに繋がると強調する。
 翻訳・出版費用は二十万レアル。その内、翻訳費用の四〇%と印刷料の二五%を同基金が助成している。原作の第一巻と第二巻の大部分が翻訳されており、六百から七百ページほどの長編になる。
 今年末ごろまでには翻訳が終わり、来年九月ごろ、リオで開催される世界柔道選手権大会にあわせて販売される。初版として約四千部を予定している。
 姿三四郎はもともと新聞小説で連載された作品。柔術と柔道の対決のほか、恋愛などロマンス的要素も織り込まれており、最後まで楽しみながら読むことができる。
 「(姿三四郎は)日本の読者向けに書かれたもので、昔の時代のこと。日本の習慣などブラジル人にはピンとこないところに気をつけた」と話すのは、翻訳を担当した林慎太郎さん。
 日本の武道を扱った翻訳書はすでにブラジルで、江戸時代初期に活躍した剣豪の生涯を描いた「宮本武蔵」がベストセラーになっている。同書販売への土壌は整っているといえる。
 岡野さんは「柔道を一人でも多くの人たちに知ってもらういいチャンス。若い親たちが自分の子どもたちの精神育成に役立ててくれれば嬉しい」と胸を弾ませている。

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