ホーム | 日系社会ニュース | 健やかに老いるために=講演会「21世紀を生きる」=介護の具体的ノウハウ紹介=二百人超が訪れる

健やかに老いるために=講演会「21世紀を生きる」=介護の具体的ノウハウ紹介=二百人超が訪れる

2006年11月10日付け

 ブラジルの二十一世紀をどう生きるか――。憩の園を運営する社会福祉法人救済会(吉岡黎明会長)と国際協力機構帰国研修員同窓会(ABJICA、中田上島エツコ会長)は八日午後、「二十一世紀を生きる高齢者の生活~ O IDOSO NO SECULO XXI ENVELHECIMENTO ATIVO~」と題した講演会を実施した。在宅介護を必要としている家族を持つ人、福祉施設で働く介護士、福祉専門家など約二百三十人の参加者は、医師や栄養士、看護士、理学療法士、心理士の話に注意深く耳を傾けていた。
 近年ブラジルは、高齢化が急速に進み、介護を必要とする老人が増えている。しかし日系の老人介護施設は数少なく、入園希望者は増える一方にある。
 グアルーリョス市にある憩の園でも入園者は現在九十人におよぶ。要介護棟は満員の状態で入園希望者の順番待ちが続いている。
 現状改善の一策として、「施設に入っていない人にも介護のノウハウを学んでもらい、在宅介護に活かしてもらう」ことを目的に憩の園とABJICAが開催したのが同講演会だ。
 二〇二五年には、ブラジルでは三千二百五十万人が六十歳以上の人口になるといわれている。九一年~〇〇年にかけては八〇歳代の人口が最も増加。〇四年にはブラジルの平均寿命は七十一歳までに伸びた。
 しかし高齢者の九〇%は慢性的な病気や何らかの病気を抱えている。

【健康に老いる】
 医師のアドゥリアーナ・タミエ・イリカワさんは「健康に老いること」が大切だと挙げた。
 老いるということは、何らかの形で身体が生活についていけない状態をいう。 身体も精神も前向きに、病気を引き起こさない精神を持つことは可能なこと。バランスの良い食事、適度な運動、感情と社会的安定を維持しようとする姿勢が大切だと述べた。
 憩の園で看護士を務めるルージア・アパレシーダ・アレイショさんは、「介護者は高齢者に前向きの姿勢を持たせるコミュニケーションを取ることが大事」と話した。
 年齢とともに体の機能が落ち、ジェスチャーを加えても自分の意志を思うように伝えられなくなる高齢者と上手にコミュニケーションを取るには、気長に接する心掛けが必要。
 本人のやる気が削げないように気をつけて、時間がかかっても出来るだけ本人にやらせるなど、出来るだけ相手の〃時間〃に合わせることが大切と述べた。

【現役で老いる】
 「現役で老いる必要性」を挙げたのは、理学療法士のマルシオ・ヒラヤマ・ススムさん。
 現役で老いるとは、社会、経済、精神的に好奇心を持つこと。
 この言葉はWHO(世界保健機関)にも起用され、人々が自分の持つ可能性を存分に活用するように呼びかけている。
 現役老人とは、社会人として十分に現役として活躍できる人のことをいう。
 「病気にならずに周囲に気を配り自立心を養い、元気に長生きする」をモットーに活動を行う彼らの行為は、自分の健康以外にも、家族や隣人、健康制度や社会福祉さらに社会制度や経済にまで影響を及ぼし、病気がちな体の不自由な人にも「努力すれば、現役老人に近づくことも可能」と前向きな思考に変えることができる。
 「『理論から実行へ』。自分の力で悪い習慣を改め、家族や周りの友人と始めてみましょう」と呼びかけた。

【食事療法は?】
 栄養士のエレーナ・ユカリ・アダチさんは、「骨粗しょう症、肥満、糖尿病、高血圧、脱水症状、便秘、高コレステロール、高尿酸などの進行性の病気を改善するには、食事療法が一番効果的」と説明。項目別に(1)食事(朝・昼・おやつ・夕)の時間を定める。(2)食事の量を定める。(3)食べ過ぎず、糖分・脂肪は、果物や野菜、煮物から取る。(4)水分はよくとる(一日に1200ml)。(5)炭酸飲料水はさけて果物ジュースには砂糖を加えない。(6)塩分を減らす。(7)一日にコップ一杯の牛乳を摂取する。(8)野菜や穀物を摂取する。(9)果物は一日一個摂取する。(10)アルコール類は控え目にする、などの対策を紹介した。

【介護者支援の取組み】
 救済会では昨年、「介護者支援グループ~Grupo de Apoio ao Cuidador」を立ち上げ、憩の園・心理士の中川クラーラさんを中心に高齢者介護に携わっている家族を対象とした「相談会」「講習会」や、アルツハイマーやパーキンソン病の人、体の不自由な人を支援する活動も行っている(月一回、第一木曜日)。
 憩の園内では年に二回、上半期と下半期に、介護サービスの基礎に加え病気の知識などを教える「介護者講習」を実施。初歩的な介護技術の手ほどきを三カ月間学ぶことが出来る。
 中川心理士は高齢者向けの情報の乏しさや責任の重さ、不安や、周囲からのプレッシャーなどの原因で、介護者が抱えるストレスも大きいと指摘。
 「重度な高齢者を介護するには、世話する人たちが元気であることが一番大切」と述べ、介護者の〃癒し〃ともなる救済会が実施している介護者支援サービスを紹介した。
 当日は、サンパウロ総領事館田畑篤史副領事やJICAブラジル事務所の小林正博所長も出席した。

image_print