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コラム 樹海

2007年2月22日付け

 クリント・イーストウッド監督によるアメリカ映画『硫黄島からの手紙』(ポ語名Cartas de Iwo Jima)を見た。セリフの大半が日本語で、まるで日本映画のようで驚いた。姉妹作『父親たちの星条旗』(A Conquista da Honra)が米軍の視点から描いた作品で、『硫黄島』は日本軍からのそれだ▼東京から南へ千八十キロの太平洋上にある硫黄島は、米軍にとって当時の爆撃機の性能から、日本本土空襲をするにはぜひとも確保したい中継地だった▼わずか二万余りの日本軍に対し、圧倒的な六万の兵を上陸させ、さらにその後方には十万の支援部隊を控えさせていた。米軍は開戦前、「五日間で陥落させる」と宣言していたが、結果的に三十六日間も激戦を続けざるをえなかった▼特に上陸当日、四五年二月十九日の艦砲射撃は〃史上最大の作戦〃として有名なノルマンディー上陸作戦をもしのぐ第二次大戦最大規模のものとなった▼ウィキペディア・サイトによれば、日本軍の守備兵力二万九百三十三人のうち二万百二十九人(九七%)が戦死するという文字通りの玉砕戦だった。対する米軍は、死傷者合計が二万八千六百八十六人(うち戦死六千八百二十一人)。島嶼防衛戦の死傷者数としては、米軍地上部隊の損害が日本軍のそれを上回った唯一の戦闘だ▼これほど米軍を苦しめた栗林忠道陸軍中将に対し、イーストウッド監督は実に中立的な視点で描く。最初から負けると分かっていても、本土空襲を一日でも遅らせる使命を貫き、偉ぶらず、地下道を掘って徹底抗戦する。脚本は戦後移住者の娘、米国二世の山下アイリスで興味がつきない映画だ。(深)

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