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弘中千賀子さんと陣内しのぶさん=遺歌集、同時に出版=前山さん「編集、生甲斐だった」

2007年8月23日付け

 最近、故弘中千賀子さんの『異土の歌』と、故陣内しのぶさんの『合鐘の記憶』二冊の遺歌集が、日本在住の前山隆さん(かつて「コロニア文学会」創立者の一人)の手によって編集、出版され、その一部がこのほどブラジルに入ってきた。椰子樹社は、二人のオメナージェン・ポスツマとして、出版記念会を催す。前山さんは、この記念会出席のため、二十日着聖した。記念会を前に、生前の二人とのつきあいを改めて披瀝するとともに「出版は、義務感とはちがう、私の生甲斐であった」と語った。コロニア歌壇の重鎮だった女性歌人二人の遺歌集がほぼ同時に発行されたのは極めて珍しい。
 弘中さんは、生前「椰子樹」の選者、日伯歌壇の選者をつとめた。また陣内さんも同じく「椰子樹」の選者、サンパウロ歌壇を小笠原富枝さんと共選して、初心者の発掘と指導に専念してきた。
 『異土の歌』(いどのうた)は、A5版クロース表紙三百二十ページ。カバーは若林和男画伯の絵。第一歌集『小さき詩型』(一九七六年刊行)以降の歌から七百六十九首(うち未発表歌三十八首)が選ばれている。年代順に第一部「『小さき詩型』以後」、第二部「にっぽんの歌」、第三部「いのちのひと日ひと日」、第四部「未発表歌」。
 『合鐘の記憶』(カリリョンのきおく)もA5版クロース表紙で二百六十ページ、カバーはやはり若林画伯の絵。六百四十五首が収録されている。年代順に第一部「初期習作」、第二部「合鐘の記憶」、第三部「ふる里の歌」、第四部「哀悼歌抄」、第五部「戦い済んで(老いの日々)」。両歌集とも発行所は御茶の水書房(在東京)。
 前山さんは、二人を評価して、あとがきでつぎのように書いている。「彼女らは、日本の短歌界に歌など送らず、その評価を恃まず、自誌『椰子樹』を守り育ててきた。決して(日本との)臍の緒は切らなかったが、文学上の一種の独立宣言だと私は了解している。その豊かな感性と語彙、エスニックな人間性はブラジル日系社会を収斂している」。
 さらに「少女期に親に拉致されるように移民となり、後進国の荒々しい農村で苦悩し、異文化や女性性に律されながら自らの生を日本語と短歌をとおして凝視し、構築してきた。その営みを郷愁などという底の浅い観念で読み取ってはならない」と一流の掘り下げた理解をしめした。
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 「椰子樹」の安良田済さんの案内によると、両遺歌集出版記念会は、二十六日午後二時から、エスペランサ婦人会本部サロンで開催される。「縁故のある人はもちろん、一般同好者の参加を歓迎します」といっている。前山さんも「今やろう、喜んでくれる人たちがいなくならないうちに、と開催を決めた」と記念会への出席をすすめた。頒布価格はどちらも十五レアル。書店では販売されない。

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