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移民化するデカセギたち=根を張る在日ブラジル人社会=連載《第4回》=毎年4千人が日本で誕生=国際理解が教育現場の課題

2007年8月30日付け

 「日本で毎年約四千人のブラジル人の出生が届けられている。この来日・長期滞在の傾向は衰えを見せていない」。毛利シスターが代表をするSABJAの監事、清水裕幸さんは『ブラジル特報』(〇四年九月号)にそう書いている。
 愛知県名古屋市に今年四月、ブラジル人学校「コレジオ・ブラジル・ジャポン」を開校した教育者、篠田カルロスさんの講演によれば、同校に通う子供の九割が日本生まれの世代だ。
 「一度は日本の学校に入ったがうまく行かなかった。いつかブラジルに〃帰りたい〃という気持ちの子供が多い」と代弁する。中には一年間で三校も転校した子までいる。一度も足を踏み入れたことのない〃祖国〃へ帰ろう、とはどんな気持ちなのだろう。
 親の世代は三〇歳から三五歳が中心で、在日十年以上が大半だという。
 篠田さんの試算によれば、在日ブラジル人で六~一四歳の義務教育年齢の世代は二万八〇〇〇人いるという。うちブラジル人学校で学んでいるのは約七〇〇〇人、日本の公立校では約八〇〇〇人で、合計一万五〇〇〇人が学習している。でも、「残りの一万三〇〇〇人が何をしているか分からない」と危惧する。
 デカセギ子弟の教育問題に詳しい、サンパウロ市在住の心理科医の中川郷子さんは講演の中で、サンパウロ州とパラナ州だけで約八〇〇〇人のデカセギ帰伯子弟がいるとの推測を発表した。
 「子供たちは一種の移民です」。十歳までの人格形成期をどこでどのように過ごすかで、残りの人生が大きく左右される。親に連れられて、日本でその大事な期間を過ごした子供たちにとって、日本はブラジル以上の存在になる。
 そんな子供たちが一万人近くも戻ってきていることは、ブラジル側日系社会にとってもいずれ大きな影響を及ぼすに違いない。
 中川さんは今回、日ポ両語でも思考能力が不足する「ダブル・リミット」という問題を強調した。
 子供が抽象思考能力や論理思考能力を育むには、その基礎となる言語能力が必要だ。日語でもポ語でもいいから、子供の時代に十分に学習しておかないと、大きくなってからいくら説明しても理解できない、認識能力の限界が低くなるという問題だ。
 「以前は九歳頃までに日本の学校に編入すれば、問題なく授業についていけると言われていましたが、現実には中高校の学習でつまずくケースがかなりあることが分かってきた」という。編入以前に、抽象思考能力が十分に訓練されていなかった可能性を指摘する。
 日ポ両語で日常会話が可能という人は一見するとバイリンガルだが、どちらでも読み書きが不得手という場合は、必ずしも思考能力が高い訳でないという。
 また、中川さんが〇三年に静岡と愛知に住むデカセギ子弟約一五〇人に調査した時、大半は公立校に一度編入しながらも適応できなかったことが分かった点が、今後重要な意味を持ってくるかもしれない。
 在日ブラジル人の三分の一、四分の一が永住するとすれば、その子弟に将来期待される役割は、日本社会との中間層としてのそれだろう。日本語が苦手な親世代の目となり、耳となり、日本社会を深く理解し、親に説明できる能力が重要となってくる。
 日本社会を理解する上で、公教育を受けていることは大きな力だ。ところが中川さんは「日本の公立校では不就学(evasao escolar)が問題になっているが、私には、学校が子供を排除(exclusao)しているように見える」と手厳しい。
 毛利シスターも「日本の学校に適応した子供の中には、ブラジル人であることを恥じてポ語を話さなくなり、親と会話が成立しなくなるケースもある」と問題提起する。
 ブラジル人というアイデンティティに誇りを保ったまま、日本語でしっかりとした教育が受けられるのなら、全国に所在する公立校は受け皿になりえる。
 現状、各地で義務教育レベルを統括しているのは地方自治体であり、先進的な取り組みをしている地域と、試行錯誤を始めたばかりのところと差が激しい。出身国の教育事情により、文化的背景どころか、論理思考能力にも差がある。今ほど異文化を深く理解する教育現場の努力が求められている時期はないかもしれない。
(つづく、深沢正雪記者)



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