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資料デジタル化の利点とは?=「公開」「利用」に意義――遠山さん研究、帰国を前に

ニッケイ新聞 2007年9月21日付け

 【既報関連】資料の〃史料化〃を――。遠山緑生(のりお)慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ総合研究機構(DMC)専任講師が、十四日、バストスでの研究活動を終え、帰国を前に、講演会「移民研究データのデジタル化とインターネット上のアーカイブ」を国際交流基金サンパウロ日本文化センターで開催した。遠山さんは「維持と活用の両方を可能にするのがデジタル化」と説明し、「大事にとっておくだけでは価値がない」と、インターネット上で公開し、多くの人が利用できる状況をつくることの意義を話した。
 遠山さんは、立教大学が中心となって進めているプロジェクト「ブラジルにおける日系移民資料の分析・保存とデジタルアーカイブ構築・移民百年の軌跡」の一員として来伯。対象地バストスで、デジタル化のための作業環境の確認と整備を行った。
 「本や歴史的資料を最も状態よく保存する方法は、誰も触らず、光にあてずに置いておくこと」と遠山さん。しかし、そうすると、資料は全く活用できなくなってしまう。
 そこで、デジタル化だ。
 データにし直す利点とは(一)原資料を使用することなく現状維持を可能にし、(二)資料としての有用性を向上させることにある。褪色してしまった写真を修復できたり、細かな資料を画面上で拡大して肉眼では読み取れない内容も判別できるようになる。
 スキャナーや複製写真の作成、文章のテキスト化によって「その原資料の持つ迫力や価値は変えられない」。しかし「デジタル化し活用されて、多くの人によって新たな意味付けがなされてこそ、資料は〃史料〃となるのではないか」と遠山さんは問いかけた。
 ただ、同氏は、デジタル化するだけでは「新たにデッド・ストック(死蔵品)を作ることになりかねない」と注意も促す。
 「ネット上にないものは存在しないも同然」という現代社会においてはコピー、複製されることの欠点以上に、情報を探している人に見つけてもらえるメリットの方が大きいとし、「たくさんの人に共有された方が経済的価値が上がることもある」と、インターネットを活用して、広く公開することを勧めた。
 その上で、史料館のすべきことは、「史料の保存とデジタルデータの管理、また、改めて史料を編纂し直すことにある」とした。
 現在バストスでは、遠山さんのアドバイスに従って、現地の人がデジタル化を進めている。遠山さんは「現状認識を共有して、後はオンラインで連絡しながら、作業を続けていきます。全史料(のデジタル化)は無理かもしれませんが、一部でもネット化までやる予定です」と、今後の方向を示した。
 講演会ではデジタルデータを保存する上での留意点や情報の整理の仕方などについても詳細な説明があった。会場には移民研究者や史料館、日系団体の関係者ら約十六人が参加し、講演後に、活発な質疑応答が行われていた。

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