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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2007年11月07日付け

 さきごろ日本の大学の研究チームが、ヤマメにニジマスの精巣細胞を移植し、ニジマスの卵や精子をつくらせることに成功したという。できた卵と精子を人工授精すれば、正常なニジマスの稚魚が生まれることも確認された。これによって、今後、絶滅危惧種や高価な魚の増産が期待されるようだ▼同じ「科」であれば、別の魚に卵や精子をつくらせることが可能とみられるので、たとえば、垂涎のマグロとサバやカツオの間でもこの関係を築けるらしい▼一方他の大学では、生きた透明な蛙が人工的につくられ、これを用いてがんの発生や進行、臓器の成長や老化、化学物質の臓器への影響を研究できるようになったという▼二つの事例を挙げたのは、科学の進歩はすごい、と言いたかったからだ。去る六月ごろ、日伯友好病院に、磁場と電波で身体の病巣をキャッチしコンピュータで画像化できる装置が導入された。早期発見に威力を発揮するらしい。最初の二件の事例は基礎研究、友好病院の診断装置は臨床までこぎつけた科学の成果である▼こんなに進歩したのだから、わが身も恩恵に与かれるか、と思えば、そうでないのが世の常だ。科学がいくら進歩しても、現実的にみて、医療費という人間社会の取り決めは、容易に下がらない▼ここで「待てよ」、科学技術の進展のお陰で寿命がさらに伸びたとしても、それが何になるのだろう、などと根本を自問する向きもあるかもしれない。しかし、年を取るとつい進展を喜び、期待してしまう。(神)

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