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連載(中) =日本の教育現場レポート =保見団地のデカセギ子弟 =増える準二世や二世 =ブラジルの習慣教える

ニッケイ新聞 2008年1月12日付け

 【愛知県発】テーブルの上に並べられた、サウガジーニョやボーロの皿の数々。壁に貼られたサンタクロースの絵や、入り口に飾られたキリストの生誕像が、日本のクリスマスとは違う、ブラジルのナタールを感じさせる。
 昨年十二月二十五日、パウロ・フレイレ地域学校(エコパフ)では、各家庭からの持ち寄りで、クリスマスパーティが行われていた。
 校長先生がクリスマスの意味やブラジルでのクリスマスの迎え方を子供たちに話す。
 「それでは大きな声でパパイ・ノエルを呼んでみましょう」。
 「パパイ・ノエール!」
 赤い衣装と白いひげのサンタクロースが学校へ入ってくると、子供たちは大盛り上がり。
 ひとりひとり、名前を呼ばれてプレゼントをもらう。抱擁と記念撮影のサービス付きだ。
 サンタに抱きついたり膝に抱かれたり、と、どの子も満面の笑みでポーズをとる。
 プレゼントはそれぞれの親が事前に用意したものだが、都合でプレゼントがない子供には、先生が急遽準備した小さなおもちゃが渡された。
 午後はカンチーニョの子供たちがアミーゴ・セクレトのプレゼント交換会。ブラジルの習慣が、ここでも生きている。
 彼らの担任クリスチーナが、ポ語で自分の「秘密の友達」の説明をするように言う。
 普段、先生やカンチーニョの仲間ともポ語で会話している子供たちだが、前へ出て発表という形になると怖気づくのか、小声になったり日本語で説明しようとしたりする子もいる。
 「もう一度ゆっくり言ってみて。La-ran-ja」。
 「ラランジャ」。
 「彼女はLとRの違いがわからないのよ。ちゃんと発音できるのは二、三人しかいないわ」。教師のクリスチーナは苦笑い。
  ◎    ◎
 ブラジルの日本語学校では、七夕やこどもの日などの日本の習慣を行事として行うところが多いが、日本のブラジル人学校はブラジルの習慣を教える。
 エコパフは、ポ語で教育する幼児・小・中等クラスと、補助教育のカンチーニョが中心だが、成人向けに夜間も授業が行われている。
 ポ語で授業をしているのは保見団地ではエコパフだけ。県内ではいくつかのブラジル学校があるが、四~五万円の月謝は県営住宅の家賃ほどになる。
 エコパフを運営する特定非営利活動法人、保見が丘ラテンアメリカセンター(野本弘幸代表)は、『質が高く、授業料の安い、地域に支えられた』教育を子供たちに提供しようと、二〇〇二年にエコパフを設立した。
 主に地域の企業や商店の寄付、同センターの会員費などで活動は支えられている。
 月謝は幼児・小・中等クラスは二万五千円、カンチーニョは一万五千円。
 親は、母国の文化や言葉に子供が触れていられるようにと願っているのだろうか。いつかブラジルに帰国することを考えてのことだろうか。
 定住化が進む中、子供たちの多くが日本で生まれるか、出生時のみ母親が帰国してまた日本に戻ってきたという状況であり、親の代から保見で育ったという子も珍しくない。
 いわば今年百周年を迎えるブラジル日本人移民の逆、日本ブラジル人移民の準二世(こども移民)や二世が日本では増えている。
 しかし、彼らの教育条件は、日本語にしてもポルトガル語にしても依然不十分だ。日本がブラジルのように真の定住地となる日は遠い。    (秋山郁美)



連載(上)=日本の教育現場レポート=保見団地のデカセギ子弟=ブラジル人校は憩いのひととき=ブラジル式に切る替わる

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