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生物利用して水道水浄化=薬品に頼らない=藻と水生昆虫の〃活力〃貰う=中本教授、招かれ来伯講演=「美味しい水がつくれます」

ニッケイ新聞 2008年3月12日付け

 「持続可能な未来をつくる100の地球環境技術」の一つとして〇五年に「愛・地球賞」を受賞した中本信忠教授(信州大学繊維学部、理学博士)が先月、サンパウロ州環境局の招待で来伯した。去る三日、サンパウロ市ヴィラ・レオポルジーナ地区にあるサンパウロ州上下水道公社で、薬品に頼らず、生物現象を利用して飲み水を作る技術「生物浄化法」について講演した。
 生物浄化法は、藻が光合成で発生させる気泡で水中のゴミをろ過池上方に持ち上げ、ゾウリムシや水生昆虫の幼虫などが殺菌して飲み水をつくる仕組み。この研究に長年取り組んでいるのは世界でも中本教授ただ一人という。
 同技術は、従来のように動力を用いたり塩素殺菌をする必要がないため、経費がほとんどかからない。設備が壊れることもなく「百年二百年でも利用可能」。薬品を使うより安全で美味しくきれいな水ができるという。
 サンパウロでは硫酸アルミニウムで水の汚れを沈殿させ、塩素で殺菌消毒するアメリカ方式の「急速ろ過処理」が一般的。同教授によれば、殺菌剤の塩素が発ガン物質を生成することもわかっている。
 同浄化法は、広大な敷地のあるブラジルでも、すぐに採用できると強調。微小動物が生息する約一メートルほどの砂層を専用ろ過池の下部につくり、流水状にして「藻を自然発生させるだけ」。百メートル四方のろ過池で、約五十万人分の飲み水の生成が可能だ。
 「生物浄化法」とは中本教授が独自に提唱した呼び名で、これまで「緩速ろ過処理」と表現されていた。約二百年前にイギリスでほぼ完成された技術だが、きれいな水ができるのは砂層での微生物の活動よりも、ゆっくりと物理的にろ過されるためと長く認識されていたことから、この呼び名が一般的に使われていた。
 生物現象を利用した水浄化技術はイギリス・ロンドンをはじめ、日本、インドネシア、スリランカ、バングラデッシュ、ナイジェリア、パプアニューギニアなど世界各国で応用されはじめている。
 中本教授は『おいしい水のつくりかた』と題した一般向けの書を〇五年に刊行。知人のサンパウロ州教育局所属の日野寛幸さんが移民百周年記念の一環として同書をポ語に翻訳しており、スポンサーが集まりしだい今年中にもブラジルで出版する意向だ。
 同教授は「自然の力を利用する環境に優しいこの方法が世界中に広まり、蛇口から美味しい水がそのまま飲めるようになるのが夢」と熱く話していた。

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