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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年7月3日付け

 なぜこんなに百周年はブラジル社会から盛大に祝われているのか。グローボTV局は六月に全伯版ニュースで連日報道した。バンカをのぞけば移民百周年をテーマにした特集を組んだ雑誌が十誌近くも見つかり、書店にも関連本がところ狭しと並ぶ▼フォーリャ紙やエスタード紙もなんども百周年特集別冊を出した。圧巻ともいえるのは各紙とも移民の日前後に社説で、百周年の意義を説いたことだ▼特にフォーリャ紙十八日付け社説は格調高かった。いわく、「日本移民百周年は、現代の世界に深刻な影響を与えている問題に関する成功例といえる。おなじ領土の中で、排他主義や不寛容な社会的態度に陥らず、どのように異なったアイデンティティを継承するかという課題だ。むしろ、複数の文化は対話と影響の中でお互いに益する」▼日本移民受け入れをここまで深く掘り下げた視点はかつてなかった。先輩格であるドイツ系、イタリア系移住祭の時ですらこんなことはなかったという。それらは基層文化が似た西洋圏からの移住であったが、日本だけは著しく異質であったという証左かもしれない▼ある二世有識者に、冒頭の問いをしたところ、「戦争前後までの日本移民への扱いが悪かったことを謝りたい意識が、ブラジル社会の上層部にあるからでは」と興味深い分析をした▼一連の伯字紙報道の中で、ある日系俳優から「我々はまだ本当のブラジル人と思われていない」とのコメントもあった。つまり、お客様扱いされているから盛大に祝われるのだ、と。今回の百周年を通して見えてきた諸側面は、いずれもじっくりと分析する価値のあることだ。(深)

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