県連ふるさと巡り＝移民街道・パンタナール～２千８百キロをゆく 連載〈１〉「やみつきになる魅力」＝いざ出発！４泊７日の旅

ニッケイ新聞　２００８年１０月１０日付け

　ブラジル日本都道府県人会連合会（与儀昭雄会長）主催の「移民のふるさと巡り」。三十回を迎えた今回、過去最高の参加者となった百十七人は九月二十六日夜、リベルダーデを発った。ツッパン、バストスでパウリスタ線の風に吹かれ、南麻州のトレス・ラゴアスで夜の帳に包まれた後、カンポ・グランデで三線（さんしん）の響くなか、沖縄ソバに舌鼓。パンタナールでワニと戯れ、ノロエステ線プロミッソンで上塚周平に思いを馳せたら、リンス温泉でひとっ風呂。果てはポンペイアで西村俊治詣でのテンコ盛りを四泊七日の強行軍と相成った。移動距離は、日本列島縦断のほぼ二千八百キロ、移動時間丸二日。この生き急ぐかのような旅の参加者の平均年齢は、七十三・五歳というから驚きだ。
　「集合時間は、午後十時半」―。
　となれば、ブラジルでは午後十一時集合もしくは十一時半を意味する。しかし、午後九時には、集合場所のリベルダーデ広場マクドナルド前に、ちらほら参加者が集まっていたというから、県連「移民のふるさと巡り」は一味違う。
　顔見知りの参加者と挨拶もそこそこにバスを確認し、一号車に乗り込む。今回は過去最高の百十七人が参加。麻雀でいうなら、親の三十符四翻ツモ上がりのザンク（三千九百点）オール。三十九人ずつのバスが三台の大所帯だ。
　ガイドの戸田エリオ氏（４２、三世）の軽快な日本語のあいさつとともに出発時間にほぼ正確にバスが広場を離れた。
　最後尾の席、記者の隣に座ったのは、団長を務める長友契蔵さん（７１、宮崎）。全員に配布された訪問都市の基礎データを見ながら、「このＩＢＧＥ（ブラジル地理統計院）のデータ、〇〇年だよ。ブラジルは発展してるからこの数字より、人口はもっと多いはず」とそのおっとりした雰囲気にも関わらず、意外に細かい部分を見ているのだなあ、と思っていると、「僕の故郷の町では、人口が減って困っているところもあるんだけど」と続ける。
　「宮崎県ですか…。それは、どげんかせんといかんですねえ」と答えているうちに眠りに落ちた。
　　　　　　◎
　すっきりと晴れたインテリオールの朝。バスを降り、新鮮な空気を吸い込みながら背伸びをしたあと、朝食を摂るというホテルに入ると、便所にいきなり行列が出来ていた。
　コロニアのイベントでは常に「女性のトイレが少ない」との苦情があるが、今回は男性の行列である。聞けば、このホテル、中庭がやたらに広いと思ったら、昔、寄宿舎だったという。　それとトイレの数は関係ないだろうが、農作業で焼けた二の腕逞しい参加者らと、かつてこの地でトイレに並んだ紅顔の美少年たちとのギャップをしばしの間楽しんだ。
　朝食はブッフェ形式だが、ここも百二十人の大行列である。カフェもパンも人垣の遥か彼方である。
　かつて物資不足が慢性化していたソビエト。「これは何の行列か」より「最後はどこですか」というロシア語を覚えた方が気が利いてるー、という話を、今回の訪問先でもあるパンタナールを釣行した文豪開高健が書いていたことを思い出し、その顰に倣った。
　ケイジョとプレズントを掻き集め、ようやく着いたテーブルで同席したのは、農協婦人会連合会（ＡＤＥＳＣ）を牽引してきた三婦人である。
　「この旅行は本当、やみつきになるわよ～」。吉泉美和子さん（６８、山形）は、早朝によく似合う満面の笑みを見せた。「思いがけない出会い」をその魅力をに挙げる。今回の参加で四回目。
　隣りに座るＡＤＥＳＣ現会長の内海千代美さん（６８、新潟）は九回目の参加。その理由を聞くと、「やっぱり、親近感が沸くよね」と一言。
　参加者、訪問地、訪問先で会う人に対する率直な気持ちなのだろう。移民やブラジル生活が長くなければ分からない感覚といえるが、記者も大きく頷いた。
　飯田正子さん（７５、二世、十回目）は、リンス出身。初めて参加した第十八回（〇三年）で、同地やプロミッソンの顔、安永忠邦さん（８７、二世）が「リンス出身の人、手を挙げて！」と大きな声を上げたことを思い出すという。
　「リンスの人によくしてもらってね。あのときは嬉しくて涙が出そうになった」と顔をほころばす。
　以前からの知り合いであり、完璧な日本語を話す飯田さんが二世だとは驚いたが、生まれ故郷、幼少期を過ごした移住地への思いがこの旅に参加する気持ちをかきたてることは間違いない。
（つづく、堀江剛史記者）

写真＝今回は最多の117人が参加した（9月30日、プロミッソン上塚公園で）