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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年10月16日付け

 「目には目を歯には歯を」の記述で知られるハムラビ法典に「最近の若いものはー」という一説があるのは有名な話。紀元前千八百年から現在まで歴史が繰り返していることを知ることが出来るのも、文字が残されているからこそ▼本年度のコロニア文芸賞は、百周年を記念、「記念誌賞」「選考委員会賞」を増設した。全ての受賞作品がいわゆる文芸、ではないのが興味深い。つまり歴史を残すという主眼が共通している。選考委員長の遠藤勇委員長によれば、「近年、応募作品にその傾向は確かにある」▼栄えあるコロニア文芸賞には、鈴木正威氏の『鈴木悌一 ブラジル日系社会に生きた鬼才の生涯』が満場一致で決まった。家族にインタビュー、私生活にも大きく踏み込んだ内容となっており、資産解凍解除運動、サンパウロ大学日本文化研究所創設、日系社会実態調査などの業績を残したコロニアが誇る異才を側面から知る貴重な評伝だ▼『ブラジル日系老人クラブ連合会 三十年の歩み』は、「老ク連の原点を次世代にー」とある冒頭の言葉のように、コロニアをより多く生きた日本人の歴史が凝縮されている。選考委員会賞に選ばれたのは、グァタパラ移住地在住の林良雄氏による『開拓』。同氏は気の休まる間もない養鶏業の傍ら、地道に資料を収集、昨年に『我がグァタパラ耕地』を刊行した郷土史家。『開拓』は、満州開拓移民であった父親から始まる家族のルーツにも触れた▼世代交代が進む今、日本語世代が移住地や人生の軌跡を残すことは、数千年後までといわないまでも、価値のあるものだと思う。 (剛)

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