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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2008年11月25日付け

 政治家の暗殺は多い。ギリシャやローマ時代もだし、中国には刺客の荊軻がおり日本も例外ではない。初代の総理大臣だった伊藤博文も狙撃され死去だし、昭和にも5・15事件で犬養毅首相が殺されている。戦後では社会党の浅沼稲次郎委員長が「3党立会演説会」で演説中に17歳の山口二矢によって刺殺され話題になった。岸信介首相も股も刺され重傷の事件もある▼だがー山口剛彦元厚労省事務次官と妻の美智子さんが、さいたま市の自宅玄関前で刺殺されるような事件は珍しい。しかも、この後には東京で山口氏の先輩でやはり厚労省の次官を務めた吉原健二さんの妻・靖子さんが鋭利な刃物で刺され入院している。犯人の小泉毅容疑者(46)が警視庁に出頭したが、極めて凶悪な犯罪である。恐らくー厚労省の旧幹部を狙った連続殺傷であり、何か恨みがあってのテロの疑いが強い▼国会では、他の厚労省幹部だった人々の警護強化論が盛んだし、霞ヶ関も緊張し厳しい警備態勢が敷かれている。犠牲となった山口さんと妻が重傷の吉原さんは「年金のエース」とされ、現在の公的年金の基本を形作った人である。このために逆恨みされたの見方もあるようだが、これらは捜査の進展を待つしかない。どちらにしても、同じ省の次官が続けて襲われるというケースはこれまでにない▼この殺傷事件の根底には根深いものがあるの思いも捨てがたい。元次官だった人々は「犯行の動機があいまいだ」とし強く非難しているけれども、山口さん夫妻は殺害され、吉原さんの妻は重傷なのである。今は犠牲となった方々の冥福を祈るしかない。 (遯)

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