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連載〈9〉困難な扶養費の取り立て=判決出ても執行できない

ニッケイ新聞 2008年12月18日付け

 二宮正人弁護士によれば、裁判嘱託書が当事者に届かない場合、管轄の地方裁判所の書記官がその書類を保管し、裁判所の掲示板に本人の出頭を呼びかける「公示送達」の手段がとられる。
 「でもブラジルの家族を捨て、日本で新たな家族や恋人をつくっているような男がわざわざ出頭するはずがない」と二宮弁護士は疑問を呈する。この場合、被告不在の欠席裁判がブラジル側で行われ、原告の要求が大筋で認められる有利な判決が下されるが、それを執行するのは現実的には難しいと語る。
 なぜか――。欠席裁判で下された扶養費の支払い命令を執行するためには、ブラジル側の原告は、東京高等裁判所に申し立てた後、新たに訴訟先の管轄の地方裁判所に執行裁判を求めなくてはならないからだという。
 一般的に苦しい生活を強いられている原告の留守家族が、さらに何年も時間をかけ、弁護士を雇うのは難しい。「ここまで手続きをした例も聞いたことがない。そもそも最初から行方をくらましている人に執行裁判を求めること自体が困難だ」。
 在聖総領事館の佐々木リカルド顧問弁護士によれば、そもそもブラジル側の判決をもとに、被告の仕事先やデカセギ斡旋会社から扶養費を天引きするという執行命令が、日本側ですんなり認められるかは分からない。「こうした具体的な問題は両国の専門家が研究していく必要がある」と現状を話す。
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 伯日比較法学会の渡部和夫理事長によると、ブラジル憲法に基づき、民法や刑法上でも、十八歳以下の未成年者や六十歳以上の高齢者、身体的な障害などを理由に、働けない人を抱える扶養義務者が、その義務を履行しない場合、実刑が科せられると明記されている。
 これを踏まえれば、相当の財産を所有していながらも、ブラジルに家族を残し、扶養義務を怠っているデカセギに対しても、理論上では実刑があり得ることになる。しかし、訴訟先のデカセギが日本で行方をくらましている限り難しい。
 佐々木弁護士によれば、仮にブラジル側で欠席裁判まで行ない、扶養費の支払いを命じる判決を出した状態で、もしも日本から本人がブラジルに戻り、さらに身柄を拘束することができれば、裁判所の命令を執行できる。
 ただ、こうしたケースも「ほとんど聞いたことない」(佐々木弁護士)と言うように、あまり現実的ではないようだ。そのため第三回で紹介したマガリさんのように、ブラジルにいる夫の両親に裁判を起こすことが相当数あるという。これは「被告の夫に圧力を与える意味が強い」と語る。
 日本で凶悪事件を犯して母国に逃亡したブラジル人は、国外犯処罰があるにしても、その実例も少なく、逃げ得になっているケースが多い。
 逆に民事においても、ブラジルの家族の扶養義務を果たさず日本で新しい家族と平穏に暮らしているデカセギも、ひとつの逃げ得と言えるのでは――。
 そうした記者の意見に、佐々木弁護士は「彼らも最初からブラジルの家族を見捨てるつもりはなかったはず。日本で長く暮らし、厳しい仕事に耐え続けるなか、次第にブラジルの家族の思い出が薄れていったのではないか。殺人や強盗事件のように意図的にしたことではないと思う」との見解を示している。(つづく、池田泰久記者)

写真=二宮弁護士

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