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■記者の眼■人道支援か強制退去か=日系人支援策巡り議論=伯字紙などが辛口の批判

ニッケイ新聞 2009年4月3日付け

 案の定というべきか―。本紙が三月二十六日付け記事以来、何度も批判してきた内容が伯字紙でも同様の論調で大きく扱われるようになった。
 日本の厚生労働省が先月三十一日に発表した「日系人離職者に対する帰国支援事業」が、ブラジルなどのメディアに「外国人嫌悪」との辛口の批判にさらされている。
 同事業は、仕事がなく帰国を希望する日系人の帰国旅費援助として、「働いていた人は三十万円、家族は二十万円をそれぞれ支給する」もの。自民、公明両党の新雇用対策プロジェクトチーム(座長・川崎二郎元厚生労働相)がまとめ麻生太郎首相に提出した雇用対策についての提言でも触れられている。
 問題にされているのは、この支援措置を受けて帰国したものについて「日系人の身分に基づく再入国は認めない」と記されている点だ。「時限的」とはなっていても具体的に何年間とは明記されていない。
 英国のBBCブラジルは「外国人嫌悪」との小見出しをつけ、在日ブラジル人組合活動家フランシスコ・フレイタス氏は「支援は歓迎だ。ただし、その裏に、社会問題を絶滅させようという政府の悪意がない限りは」と条件をつけ、「この処置は外国人嫌悪だ」と決め付けた。
 加えて、武蔵大学のアンジェロ・イシ准教授も同取材に答え、「日本政府が期間を限定して、不況の間だけ再入国を拒むのなら理解できるが、今のように未来永劫、移民としての戻ることを拒むようにもとれる現在の処置は別だ」と批判し、「私の在日ブラジル人への忠告は明確だ。この三十万円を受け入れる前に、将来後悔しないように三十万回考え直すべし」と締め括った。
 そのほか、二日付けフォーリャ紙でも、「実質的な強制退去」だとの論調で報じられた。群馬県大泉町でブラジル食レストランを経営するファウスト・キシナミさん(32)は友人の誰一人として、その支援を受け取るものはいないとし、「このお金は受け取るべきではない」と断言した。
 サンパウロ市で帰伯デカセギ者に職紹介などの支援をするグルッポ・ニッケイの中林ミルトン副会長もフォーリャ紙の取材に「これが人道的支援か、強制退去か、疑問だ。再入国禁止期間が一~二年ならまだしも、もし十年なら二度と戻るなといっているに等しい」との意見を述べた。
 外国人との多文化共生を謳う日本社会としては、このまま放っておいていいのか。必要な時だけ、受け入れ態勢も作らずに呼んで、要らなくなったら〃熨斗紙(のしがみ)〃をつけてブラジルに突き返すような措置ではないか。
 しかるべき〃人道的〃な解決が求められている。(深)

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