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■記者の眼■小川氏、治安委員会検討=「地方の切実な声を聞け」

ニッケイ新聞 2009年4月17日付け

 聖南西文化体育連盟の代表者らの表情は真剣だった。
 聖週間の真っ只中、普通なら家族とゆっくり旅行でもしていておかしくない。本来は、山村敏明会長だけが下見にくるつもりだったが、いつの間にか十五人もの視察団に膨れ上がった。
 それだけ、治安問題は関心が高い。農家を多く抱える地方日系団体にとって切実な問題だ。下山さんの一件は、数え切れない悲劇の一章だ。
 みなが不安な気持ちで畑を耕し、暗い夜を過ごしている。
 今回視察したサイレンは、福博村創立五十周年の一九八一年には設置されたが、それでも村人が惨殺されたり、デカセギ帰りが狙われて五万ドルを強奪されたり、襲われて重傷を負わされたりと事件は続いている。
 これはブラジル社会自体の抱える問題であり、どんなにコロニアが総力を挙げても根絶することはできないが、ある程度の予防は可能だ。
 質疑応答で、聖南西の南満第一副会長(ピラール・ド・スール日伯文化体育協会会長)も「犯人から、誰かに言ったら家族を殺すと脅され、被害届を出さずに泣き寝入りも実は多い」との声も出され、大浦さんは「それは犯人の常套句。みんなで事情を打ち明けあい、対策を立てなくては、予防できるものもできない」とアドバイスした。
 情報を共有し、知恵を出し合い、お互いの不安をさらけ出し、アドバイスし合うことで、かなりの改善はされるはずだ。
 このような切実な問題にこそ、日系社会を代表する組織は取り組まなければならない。だが、かつてその例はない。
 今回、文協会長に立候補する小川彰夫さんも聖南西視察団に同行し、「フェスタや式典で挨拶するだけが文協役員の仕事ではない。このような地方の切実な現場の声をくみ上げ、一緒になって考えることが大事ではないか」と訴え、大きな賛同をえた。
 小川さんが当選した時には、地方連合会と結束を密にし、治安委員会を創立することを考えているという。サイレンなどの防犯設備の共同購入設置、警備専門家や軍警幹部に協力を依頼して地方部巡回の指導、講演会なども考えられるという。
 これに対し、山村会長は「移民は地方から始まった。地方を重視してくれる人に、文協会長になってもらいたい。我々のような地方の連合会の切実な要望に応える文協になってほしい」とエールを送った。
 大浦さんも「今の文協幹部には〃コロニアは存在しない〃などと言ってきた人もいる。USPの窓からは、日系社会は見えないに違いない。地方におけるコロニアの重要さ、存在の確かさを分かってもらいたい」と注文をつけた。
 多くの移住地、植民地の先駆者は「第二のふるさと」建設を目指して、しっかりと根を張り、踏ん張ってきた。でも、治安問題が大きな影を落としている。大浦さんも大きな自宅に子ども、孫と一緒に住むことを夢見てきたが、子どもたちは町に住んで、植民地は「怖い」から戻りたがらないと、残念そうに語った。
 このままでは、植民地の過疎化が進むばかり。地方政治家や警察機構など、コムニダーデの持てる力を合わせて、ブラジル社会の改善に尽くすことが必要な時代になってきた。計画的に日系政治家を輩出し、日系企業家の協力を仰ぐ、総合的な日系社会指針が求められている。 (深)

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