ホーム | 日系社会ニュース | 国の帰国支援と混同=岐阜県知事が異例の手紙=再入国制限問題で誤解か

国の帰国支援と混同=岐阜県知事が異例の手紙=再入国制限問題で誤解か

ニッケイ新聞 2009年5月9日付け

 国のデカセギ向け帰国制度と混同している人がいる――。岐阜県の古田肇知事が日系社会の理解を求める異例の手紙(四月二十三日付け)を、ブラジル岐阜県人会宛てに送ってきた。帰国支援制度には二種類ある。国の日系人支援策の一環としての帰国支援制度には、三十万円を受け取れば日系人としてのビザで再入国できない制限がつく。ところが県知事の元に、その事情を混同したブラジル在住日系人から、「再入国を認めない帰国支援制度は、帰国せざるを得ない状況になっている日系ブラジル人の心を踏みにじるものだ」という厳しい指摘の手紙が届いたという。

 再入国制限というのは国の権限であることから、県レベルでは不可能な施策でもある。岐阜県が行っているのは帰国者向けの融資制度で、なんら制限はない。
 その誤解を解くためにこの手紙が県人会宛てに送られた。その中で、知事は「県人会の皆さまはじめ、ブラジル在住の方々に広く知らせていただきますようにお願いします」としている。
 七日来社した山田彦次県人会長は、「県の内政について理解を求める手紙は異例です。それだけデカセギの問題には県として気を遣っている証拠」と強調する。
 国に先駆けて発表された同県の帰国支援制度は「無担保」「無保証」「低利」の帰国費用貸し出しをする。加えて「相談窓口の設置」「ブラジル人学校への支援」「居住支援」「日本語や職業教育の充実」などもあわせて実施されている総合的なもの。
 ルイス・アウグスト・デ・カストロ・ネーベス駐日ブラジル大使からも、三月五日付けでこの県レベルの対応に関して感謝状が届いている。

■記者の眼■本音の部分はどこに

 岐阜県の帰国支援策は、帰伯時の航空券の購入に必要な資金を金利一・五%で貸し付け、五年間で分割返済させるもの。「県は焦げ付き分を全額保証する」(読売新聞三月五日付け)とあり、ある程度踏み倒しの危険を覚悟の上の思い切った政策だ。
 県職員の賃金カットをするほどの厳しい財政事情の中、金融危機による不況で外国人からの生活保護申請が増えた流れもあり、他県に先駆けて同政策を発表した背景がある。
 毎日新聞四月二十三日付けによれば、「三月一日現在の県の人口が前年同期比で六千六百五十二人減と大幅に減り、県が統計調査を始めた七三年以来、減少幅が月別で過去最大になったことが分かった。景気後退に伴い、ブラジル人ら外国人の転出数が増えたことなどの影響とみられ、県は第二回帰国費用支援事業として、六月末までに帰国を望むブラジル人に費用を支援する方針を決めた」とある。
 つまり、県人口が減ることを厭わず、財政的に無理をしてでも、さらに帰伯を推進する姿勢を示している。
 たとえ帰国制限はなくとも、本音の部分では、ブラジル人に「もっと帰って」と言わんばかりに後押しする〃支援策〃であるとは言えそうだ。  (深)