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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年5月23日付け

 秋も深まり朝夕が冷え込むようになると日本人にとっては風呂が最高のご馳走になる。とりわけ熟年になるとシャワーでは物足りなく湯のたっぷり入った浴槽に身を沈めるのが一番。それぞれの好みがあろうけれども、熱々が大好きの人もいれば、いや体温より少し高めがよく、ここでじっくりと汗を流せば疲れも吹き飛ぶ▼あのドン・ペドロ2世は大の風呂嫌いだったらしいが、ローマ帝国の「カラカラ浴場」はよく知られ、3200人も入浴できる超のつく巨大なのもあった。文豪チェーホフやドストエフスキーもだしー「若きヴェルテルの悩み」のゲーテが70歳で17歳のマリエンバートに恋をしたのもチェコの温泉であり、欧米人にも湯好きはそれなりに多い▼日本には「銭湯」という便利なものがあるけれども、あれは鎌倉時代にもあった。江戸では天正19年(1591年)に伊勢与一なる人が創業したそうだが、これは今のサウナである。しかも混浴であり、性風俗もかなり乱れていたらしい。2階には、湯女もいて湯上りの客たちは将棋の盤を囲んだりしてかなり繁盛したらしい▼そう言えばローマの公衆浴場は15世紀の末に次々に姿を消して行く。犯人?はコロンブスであり、あの偉人はアメリカから梅毒という歓迎せざる土産を持ち帰った。この性病が欧州で大流行したので当局は、伝播の源は「浴場」とし入湯禁止を命じる。このため栄華を誇る大浴場も廃墟へと歩みだしたのは、真に惜しい。それにしても、演歌を口ずさみながらの入浴は快味の極楽であり冷える夜の湯の温もりはやはりいい。  (遯)

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