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愛知県=知立団地での共生の実情=まるで日本の〃東洋街〃=1850戸に2千人の外国人=中島市議「相談増えた」

ニッケイ新聞 2009年8月1日付け

 【愛知県知立市発=秋山郁美通信員】他地区に住む日本人は、そう理由がない限り知立団地に足を踏み入れることはない。外堀のような道路の向こうは、不思議ニッケイ空間。半径約二百メートルの楕円に聖市の東洋街をはめ込んだような異界の雰囲気が漂う。ごちゃごちゃと店先がにぎわうスーパー「マルス」は、まるで「丸海」のよう。路上駐車、日ポ両語が当たり前の看板やポスター、そしてランドセルで通学する子どもたちからは日ポ両語のはしゃぐ声が聞こえる。知られざる知立団地の共生の姿を追ってみた。

 「ここにブラジル人が多くなってきたのは最近のこと」と、四十年近く団地を見守ってきた市議二十七年目の中島牧子さん(62)。笑顔を浮かべながら、そう振り返る。「十年くらいかな。一気に増えて団地内の小学校があふれちゃって外にもう一つ小学校作ったくらい」。生活相談は市議になってから続けているが、最近は特にブラジル人の相談者が増えた。
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 日本全国で最もブラジル人が多い愛知県(約七万人)において、実は最も外国人比率が高い自治体が知立市だ。市人口のうち、外国人は六・五三%を占め、その大半がブラジル人となっている。名古屋市や豊橋市、豊田市などがずば抜けて外国人数は多いが、住民にとっては外国人比率が高い方がより存在感を強く感じる。
 この団地だけでみれば、実に千八百五十戸に約二千人の外国人が住む。市内の外国人の約半数がこの団地に住んでいる計算になる。つまり、この地区だけみれば、外国人比率は日本有数の高さとなる。
 今年四月に同団地で行われた派遣村に参加して以降、口コミでブラジル人からも中島さんに電話が来るようになった。「一度お話を聞くと道で会えば声かけてくれたり、誕生パーティに呼んでくれたり、とても気さくな人たちなのね」。そう話すが、最初から好印象を持っていたわけではない。
 「団地の集会所では盛大な誕生パーティをやるし、公園でバーベキューはするし、逆カルチャーショック。道端で集まって話をしていても、バイクの改造をしていても、とにかく怖いというイメージを団地の日本人は持ってたわ」と思い出す。
 外国人は自治会にも入らないため、話し合いの場が持てなかった。それが昨今の「多文化共生」の流れで徐々に変化してきた。
 中島さんは、「去年から夏祭りの盆踊りがサンバになってしまった」と笑いつつ、「盆踊りは民謡クラブが舞台の上で踊るだけ。バザーも日本人が少なくなって、今年は三十店舗中日本人の店は四店舗。これが共生?」と問う。
 団地住人は、若い世代はブラジル人が多く、日本人は年配が多い。自治会がブラジル人も巻き込もうとしたところ、形勢が逆転してしまったらしい。
 昨年からは日系ブラジル人の女性が自治会の役員になるなど交流は増えてきてはいるが、対等な仲間という雰囲気ではないようだ。
 外国人住民が多い地区ではゴミ問題がよく話題になるが、「この地区は一番きれいと言われているのよ」と意外な事実を明かす。
 市内では資源ごみの日は、住民が当番制で仕分けの手伝いをすることになっているが、知立団地のある昭和地区では業者に依頼。住民はその代り年間千八百円でカードを買って、ごみ捨ての際そのカードを提示する仕組みにしたというのだ。
 外国人住民に新たに教え込んで適応させるより、外国人の存在を最初から考慮したシステムを採用する実践主義的な発想のようだ。
 また、失業をきっかけに日本語を習いたいという外国人が急増。自治会に入会すれば半額という日本語教室を団地内の集会所で開いたところ、九十人以上が加入したという。
 「たくさん相談を受けたけど、これを個人的なつながりじゃなくて全体の団結にしなきゃいけないわね。団地商店街に相談や交流のセンターが作れたらいいと思うんだけど」と次なる目標も見すえる。
 「火事でも起きたら、わたしたち日本人は若いブラジル人に助けてもらわなきゃならないね、なんてみんな話してるのよ」。そう中島さんは笑う。
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 もてはやされる「多文化共生」で、外へは積極的に交流に出るがすでに内にある「外国」とはうまく融和できない現状がある。
 しかし、どう融和させるかという肯定的な将来イメージが重要だ。聖市の東洋街が観光名所として一般社会に定着したように、いずれ知立団地にも、よその日本人が興味を持って覗きに来るような、理想的な共生関係が生まれる日がくるかもしれない。

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