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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年9月9日付け

 この一週間は浪花パワーを堪能した。八月三十日に文協大講堂で上映された映画『新世界歌謡道』(安田淳一監督、森千紗花主演)はあまり期待していなかった(失礼!)こともあり、かなり感動した。しっかりしたシナリオの人情ドラマで、職人の仕事を見せてもらった▼加えてこの五日には、大阪・サンパウロ市姉妹都市四十周年の記念イベント、成世昌平ショーで聞かせてもらった「淀川三十石船舟歌」は絶品といえる。江戸時代から明治時代まで、京都・大坂間の重要な交通手段として活躍した淀川三十石船の船頭衆によって唄われた船唄の一つで、成世さんのプロの技で、民謡と語りが絶妙の絡みをみせていた▼五〇年代後半にサンパウロ市ラジオ局でアナウンサーをし、全国民謡巡りという人気番組をやっていた石崎矩之さんも「こりゃ凄い。これだけで聞きにきた甲斐がありました」とうなっていた▼ショーのハイライトはなんと言っても、「王将」(村田英雄)などの名曲の作曲をした船村徹さんが手掛けた『みかえり富士』(作詞=もず唱平)だ。メジャーなレコード会社から出たブラジル移民の歌としては初だろう▼移住前に作詞して、その後日本で大ヒットしたことすら知らなかった故・酒井繁一さんによる「ひえつき節」と、そのエピソードを盛り込んだ『ノスタルジア椎葉』も聞き所だった▼酒井さんは生前、歌詞の印税申し込みを断っていた。もし、していたら裕福な老後が送れた。息子の嫁・文子さんによれば、「民謡はみんなのものだから誰が作ったか言う必要ない。歌ってもらえばいい」と言っていたという。祖国への想いは金に換算できない――。 (深)

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