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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2009年12月8日付け

 きょうは臘八。雪山で苦行していた釈迦が、この日の朝に悟りを開いたと伝えられ仏教では大切な日とされる。取り分け禅宗では重んじられ12月1日から僧たちは不眠不休の坐禅に入り、これを臘八接心と呼ぶ。今もこの伝統は続き、江戸の支考は「臘八や痩は仏に似たれども」と詠み、粗末や食事に堪えながら修行に励む若い僧侶らを描く▼この日の朝ー。厳しい修練を成し遂げた僧らには、茶粥や沢庵などの臘八粥(温糟粥)が出されるが、これとても、ご馳走とは縁が遠い。この日は、あの山本五十六元帥が率いる連合艦隊が米の太平洋艦隊攻撃のためハワイを攻撃した開戦記念日でもある。近頃は、8月15日の終戦の日だけが大きく取り上げられるけれども、12月8日も忘れないで欲しい▼あの開戦の日。海軍兵学校卒の酒巻和男少尉は、米艦隊への奇襲攻撃を行うべく「特殊潜航艇」に乗り込み出撃したが、米軍の攻撃を受け座礁し海に飛び込むがー意識を失って捕まり「捕虜第1号」となる。潜航艇は5隻、乗組員は10人だったが、酒巻氏を除く9人は死亡し大本営は「9軍神」と発表し崇敬したのだが、酒巻氏は「非国民」と非難された▼酒巻氏は、ブラジル・トヨタの社長だったし、移民社会とも近い。昭和24年に「捕虜第1号」の著作があり「潔く死を選ぶのが正道だとも考えた」「捕虜になったからといって、何の理由をもって非国民と呼び」としている。徳島県阿波町出身の酒巻氏はもう黄泉に向かったけれども、12月8日には、こんな話もあったのだとー68年前の「きょう」を振り返りたい。 (遯)

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