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どうなる2010年ドーハ・ラウンド=締結にはほど遠い?=伯農産物が世界席捲か

ニッケイ新聞 2010年1月1日付け

 WTO(世界貿易機関)のロベルト・アゼヴェード伯大使が「2010年における通商協定の見通しは余り成果を期待できないが、制限付きの通商交渉を覚悟しなければならない。22カ国で結成した南米途上国連合の間で2カ国間の個別交渉が成立する位で、グローバル交渉を目指して腹痛を起したドーハ・ラウンド(多国間貿易交渉)の締結には程遠い感がある」と述べた。

ブラジル農産物は世界の脅威となるか

 いずれにしても、大統領選挙と農業の二つを通商交渉に合わせて考慮する必要がある。2010年の選挙は、通商交渉に役立たない。ドーハ・ラウンドの求める市場開放は、多くの労働者の失業につながるとして同大使は次のように語った。
 農産物は、恐らく永遠の問題といえそうだ。農産物の市場開放や補助金の廃止は、国家安全保障につながる重要な問題だ。先進国の農業生産者は、補助金制度という過保護政策のもとで温存されたので、生産技術が非常に遅れている。
 ドーハ・ラウンドは、農産物の市場開放を引き換えに工業製品の市場開放を求めている。ブラジルの突出した農業生産技術は、世界の脅威となっている。農産物の市場開放は、国民の生命線につながる国家安全保障の問題であるからだ。
 ブラジルの農産物は、中国の工業製品と同じように世界の脅威となっている。ブラジルと通商協定を締結しそうなのは、関税を20%ないし30%下げる途上国連合だけらしい。
 途上国22カ国の中には、インドや韓国、インドネシア、フィリピン、南アフリカ、アルゼンチンのような大消費市場が含まれている。残念だが中国は、誰もが敬遠して仲間に入れない。
 現在進行中の関税削減交渉は、メルコスルが提示した50%以下の国々が、当初の目安となっている。それならば農産物で十分競争が可能で、ブラジルは市場を広げられる自信がある。
 関税一律30%カットでほぼ合意に至る可能性もあるが、インドと韓国はブラジルの農産物が市場に溢れる可能性があると、両国の生産者から恐れられている。両国ばかりでなく世界の70%の国々で、同様の現象が起きると懸念している。
 Unctad(国連貿易開発会議)は、関税を20%カットすれば、年間77億ドルの経済効果が見込まれると計算した。そうなると経済成長の50%は、中国とインド、ブラジル、南アフリカで占めることになりそうだ。このような現象を軽視できないと米国政府が案じている。

選挙の年の国際交渉は

 先の途上国連合は、ドーハ・ラウンドを復活させようと、途上国間の交渉を一時中断した。しかし、現状を見ると往年のような交渉締結の意欲はないとWTO(世界貿易機関)のアゼヴェード伯大使は見る。ブラジルは、同ラウンドに持ち札の殆ど全部を賭けてしまったからだ。
 ドーハ・ラウンドは、8年にわたった長期戦であった。パスカル・レミーWTO理事は最終的に、工業製品の関税に50%カット、農業補助金を80%削減、農産物関税を70%まで下げることで決着を求めた。
 G20の首脳は2010年、ドーハ・ラウンドで決着をつけるために集まることに合意した。しかし、オバマ政権には2010年末に議会選挙があるので、ドーハ・ラウンドを2011年へ先送りする可能性がある。
 選挙はいつも、通商交渉のじゃまになる。典型的な例はインドだ。同国は選挙が終わるまで、一切の国際交渉をしない。選挙が終われば、米国よりも開放的だ。米国は、ジュネーブの国際会議に各国の圧力がなければ、出席を拒む。腰の重いことでは中国も同じ。
 ブラジルにとっては、ドーハ・ラウンドを除いても未知数が大きい。エタノールに対する市場開放は、予測不可。2008年までは、エタノールの政治的見通しは良かった。それなのに今は、合弁事業から外国企業が次々撤退している。

変わるエタノールの議論

 EUはエタノールが環境に是か非か2010年、議論するという。昨年はエタノールを時代の寵児として歓迎したのにだ。今年は食糧生産の妨げとなり森林伐採の動機になると態度が変わった。妙な変わり様だ。
 エタノールに関する伯米間の諒解は、反古にされた。あれ程もてはやされたエタノールは、米国のトウモロコシ・エタノールと同様の位置付けをされた。ドーハでのエタノールに対する特典は、失われたようだ。
 ブラジルの民間企業が食指を動かした欧米市場への進出で、欧米はメルコスルとFTAA(米州自由貿易圏)をかみ合わせてきた。FTAAが頓挫したいま、EUはメルコスル共同市場のアクセルから足を外した。
 EUはドーハ・ラウンドに興味半減の様子を見せている。農産物での譲歩を敬遠したからだ。EUは2010年を目処にメルコスル共同市場交渉を提案してきたが、ブラジル側はそれがものになると思っていないし、乗り気もない。

牛肉、鶏肉の未来

 EUとブラジルの農産物取引は、管理貿易になる可能性が高い。ブラジルは過去2年、割り当てを超過してEU向け牛肉輸出を行なった。不当関税を払っても押し売りしたのが、ブリュッセルでは管理不可と判断された。衛生管理だけは守ったが、数量ではドーハ決裂以来、予測管理が困難となっている。
 鶏肉ではEUの指示に従ったが、牛肉には関税の引き上げをEUが検討している。米市場は知的所有権が絡むFTAAでは話がまとまらないが、通商関係だけの2国間交渉で締結と見ている。
 FTAAは、米国提案である。ブラジルが100%自由貿易を容認しているのに対し、米国はオレンジ・ジュースと砂糖、鉄鋼、靴の市場開放を拒んでいる。ブラジルは米国に先んじてメキシコと2010年、自由貿易協定の締結見込みだ。
 メキシコは、世界6位の食糧輸入国。ブラジルから大量の豚肉と乳製品が、輸出される見込み。しかし、農産物の完全解放には、メキシコが難色を示している。
 次の2010年の標的は、南アフリカとナミビア、ボツアナ、レソート、スワジランドだ。現在は関税交渉を行っている。自動車を除く1千種類の生産物が対象だ。
 それから協定締結まじかなのが、メルコスルとインド。450品目が関税を掛けられるが、それ以外は農産物も含めて自由化される。
 さらにメルコスルは、モロッコやエジプト、ヨルダン、トルコとの交渉が進んでいる。イスラエルの自由化は、メルコスル議会の承認次第で発効となっている。

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