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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年5月26日付け

 戦後、強い意志で日本文化を残そうと時代と格 闘してきた人たちが老年を迎え、それを受け継いだ二世、三世、あるいはブラジル人から感謝のセレモニーが行われる時代となった▼松柏学園・大志万学院で生涯を日本語教育に捧げてきた川村真倫子さん(81、二世)を顕彰して、教え子や父兄が主催する記念パーティ(実録映像上映、自伝の刊行)が6月11日にサンパウロ市アニェンビー国際会議場の中講堂で行われる。その生涯は〃日本語教育の鬼〃とでも表現すべきものであり、戦前の大正小学校の流れを汲む伝統的教養を教えることで定評がある▼先週土曜にはブラジル柔道代表チームの元監督、岡野修平さん(72)が伯柔道連盟から九段の免状を受け取った。サンパウロ州柔道連盟のフランシスコ・デ・カルバーリョ会長は「岡野先生が伝授したのは技術だけでなく、勤勉さ、負けたときの心構えなどの哲学だ。選手生命は数年に過ぎないが、この哲学は一生を豊かにする」と高く評価した▼二人に共通するのは、ただ単に技術を伝えるだけでなく、日本文化や教養、哲学に根ざした広範な教えを垂れたことだ。どちらも「日本では失われた伝統がここには残っている」といわれるほどの教えを残し、感謝されている▼思えば戦後、勝ち負け紛争の辛い時代には日本語不要論、完全同化主義すら唱えられた。それから60年以上たって分かることは、伝統を残したものほど結果的にブラジル社会から賞賛される現象だ。「我々のジャポネースの方が、米国の影響が強い日本の日本人よりはるかに伝統的だ」とブラジル人の同連盟会長が自慢げにいう姿を見ながら、深い感慨を覚えた。(深)

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