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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年6月11日付け

 勝ち負け紛争さめやらぬ1951年、当時の認識派有識者が座談会を行い、アマゾンへの入植を時期尚早とする比喩として、「3代たったら猿(マカコ)になる」と司会者が発言した記事が日本の総合月刊誌『中央公論』に掲載された。これが勝ち組から問題視され、ブラジル官憲から国外追放を前提に調査された「マカコ事件」に発展したことがある▼10日付け7面で詳報したパリンチンス日伯協会の武富マリオさんは、母方をインディオ筋とする三世。件の座談会の有識者からすれば、まさに〃マカコ〃になっているはずの世代だ。それが高拓生80周年を機に「戦争中に失われた日本文化を取り戻したい」との決意を語っていることは、当時からは想像もできないことだろう▼今まで三世世代から先は一方的に日本文化を喪失するだけだと思われていた。しかし、百周年の頃からあちこちで揺り戻しが起きている▼09年に誕生したリベイラ沿岸のパリケラ・アスー日伯文化協会、08年6月に発足したブラジル最北のロライマ日伯協会(ANIR)などもその一例だ。日本で教育を受けたデカセギ帰国子弟もそうかもしれない▼6世世代まで増える時代になって、いったんはブラジル社会に埋没したかにみえた世代から、日系意識を取り戻す「揺り戻し運動」が起きていることは興味深い。これはブラジル人としての自覚の上にたって、日系特性を持つことで自らの価値を高めようという動きだ▼伝統的な団体が会員数を減らして弱体化しているにしても、このような新しい芽も誕生している。これらを日系社会全体としてみれば、新陳代謝といえるかもしれない。(深)

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