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石井千秋氏=最年少で9段に昇格=伯国柔道初メダルの男=「人生最良の瞬間です」

ニッケイ新聞 2010年7月3日付け

 1972年のミュンヘン五輪で伯国柔道界に初のメダルをもたらした石井千秋さん(68歳、栃木県)に対し、ブラジル柔道連盟は6月12日に国内最高段である9段の伝達式を行った。昨年末の岡野脩平さんにつづき伯国内で7人目、しかも史上最年少の9段保持者となった。1千人以上が集まって聖州カンピーナスで開催されたパウリスタ選手権大会の中で行われた伝達式では、聖州柔道連盟フランシスコ・デ・カルバーリョ・フィーリョ会長から表彰状、記念メダル、赤帯(9、10段のみ)が贈られ、石井さんのデモンストレーションも行われた。

 祖父の代から柔道一家で、父は柔道8段、兄・勇(いさむ)さんは早稲田大学時代に学生柔道界で名を馳せた。そんな石井家の7人兄弟の末っ子で、早稲田大学の教育学部を卒業した石井さんは「とにかく外国にでたかった」と、呼び寄せで64年に22歳で来伯した。
 その年にいきなり柔剣道大会で優勝して注目を集めた。南米を武者修行して回り、ボクシングやプロレス選手を相手に異種格闘技の経験を積み、日本ではできない鍛錬を繰り返した。
 伯国柔道連盟から帰化の要請を受け五輪代表になる。渡伯前に東京五輪代表をめざしていた夢が、72年に当地で実現した。柔道でメダルがもらえるとは誰も想像していなかったが、最も金メダルに近いと言われた日本の笹原富美雄が2回戦で敗れる大番狂わせがあり、もう一人のジャポネースである石井さんにがぜん注目が集まった。
 「突然ブラジルのメディアが僕らの控え室に来て、ブラジル代表なのに演歌がかかってるとか、日本語の本が山積みになっているとかベージャに書かれた」と岡野さんは頭をかく。石井さんによれば「精神集中のために司馬遼太郎の『龍馬がゆく』を読んでいたんですよ」と苦笑いする。
 その年、伯国が獲得したメダル2つのうちの一つが石井さん、一気に名声が高まった。それが契機になってブラジル人一般に知名度が高まった柔道は、84年のロス五輪で伯人選手によりメダル銀銅、88年ソウル五輪ではついに金を獲得する歴史につながった。
 当時、代表監督だった岡野さんは「二人三脚」で石井選手をしごいた。一日に5~6試合も行う五輪では、「準決勝にもなると腕をもんでやろうと思ってももうガチガチなんです」という。決勝戦まで腕力、握力を持たせるためにはスタミナが勝負だと考え、五輪大会前には稽古の後に10キロの走りこみを行った。
 石井さんは伝達式について「ブラジル人に素直に評価されたことは嬉しい。人生最良の時だった」と喜びを語る。感想を1千人の前でポ語でしゃべるように求められ、「そういうの苦手だから」とデモンストレーションをやり、身体で雄弁に語った。
 今も胴着を着て稽古をつける石井さん、「死ぬまで柔道をやる」と笑って答えた。

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