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終戦記念日に「心の歌」を=サンパウロ市=第10回日本人の心の歌=昭和伝える歌謡ショー=軍歌、「同期の桜」に涙

ニッケイ新聞 2010年8月17日付け

 今年で10回目となる「日本人の心の歌チャリティー・ショー」(同実行委員会、ニッケイ新聞社共催)が15日、サンパウロ市の文協大講堂で開催され、終日1千人以上が来場する賑わいを見せた。終戦記念日に開催された今年のショーでは例年に比べ軍歌なども多く、コロニア歌手55人が戦前、戦後の2部に分かれて、明治から昭和末期までの名曲を熱唱。2階席までに及んだ来場客はそれに聞き入り、涙を流す人も多く、曲と自身の記憶とを重ねて、過ぎた日々を懐かしんでいた。

 朕深く世界の体勢と帝国の現状とに鑑み非常の処置を以って時局を収拾せんと欲し――「終戦65周年」というテーマの下開催された今年の「日本人の心の歌」では、玉音放送の一部が朗読される場面があった。
 「心にせまる昭和の名曲スペシャルショーをお送り致します!」。「君が代行進曲」が流れる中、司会の道康二さんのナレーションと共に舞台は幕を開けた。
 1曲目は応募曲400曲の中で1位を獲得した「荒城の月」(明治36)で、歌ったのは、15歳の岡部ジュリアさん。その後も、時代を追った形で、その名曲が生れた背景、世情、戦争との関わりを紹介しながらプログラムは進んだ。
 海軍将校に扮した羽田宗義さんは日本兵玉砕のニュースの鎮魂歌に用いられた「海ゆかば」(昭和12)を直立不動で熱唱。歌い終わり、「天皇陛下バンザイ! 日系社会バンザイ! 故郷日本バンザイ!」と声を上げ両手を挙げると、それに応える来場者も。
 「すみだ川」(昭和12)「九段の母」(同14)「仰げば尊し」(同16)などと続き、戦前の部の最後、「同期の桜」(同20)では、海軍訓練生姿の歌手の後ろで大日本帝国海軍軍艦旗が翻り、海軍、陸軍、空軍の軍服を纏った出演者らが並び、右のコブシを振った。
 お昼時には日本舞踊、太鼓の公演が行われ、来場者はお弁当片手に視線を注いだ。
 道さんが玉音放送を朗読し午後の部が開始。美空ひばりのデビュー曲「悲しき口笛」(昭和24)を5歳の吉田アクレシアちゃんがタキシード姿で歌い、来場者からは笑みがこぼれ、大きな拍手が送られた。
 「かえり船」(昭和21)「岸壁の母」(同29)「上を向いて歩こう」(同36)「おふくろさん」(同46)と終戦直後から昭和末期まで、時代を彩った歌が歌われた。
 「悲しき口笛」の他、「柔」(同39)「悲しい酒」(同41)など、美空ひばりの名曲が多く歌われ、最後には壇上に出演者一同が上がり「川の流れのように」(同64)を合唱してショーは幕を閉じた。
 陸軍の幹部候補生だった羽田さんは出演歌手中、最高齢の84歳で唯一の元軍人。取材に対し「戦友たちのことを思うと今でも目頭が熱くなる。彼らを慰める為にも歌いたかった。日本では披露の場が与えられないのは残念。軍歌にしろ名曲として残していきたい」と話した。
 バイーア州イツベラ在住の宮川節子さん(81、千葉)はサンパウロ市在住の孫の運動会と悩んだ末、初めて来場した。「こんなに沢山、昔の曲がやっているとは思わなかった」と驚いた様子で「戦争は絶対やってはいけない。当時のことを子、孫に伝える事が大切」と力を込めた。兄を戦争で亡くしており、「同期の桜」では涙が溢れたという。
 司会、企画構成を務めた道さん(72)は7歳の頃、東京で空襲を受けた経験がある。「戦争を風化させてはいけない」と話し、10年司会を続ける同ショーについて「故郷は遠くにあって思うもの。皆さん毎年、涙を流して歌を聞いてくれる特別なもの。まだまだ続けていきたい」と話した。

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