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イビウナ庵便り=中村勉(べん)の時事随筆=11年1月第1号(3日付け)=Dilma新大統領の就任演説

ニッケイ新聞 2011年1月7日付け

 2011年元日、Dilma(63歳)の大統領就任式をTVで追った。長丁場だったが、しっかりした足取り、どっしりした物腰で、歳を感じさせなかった。
 演説は、飾り気のない、落ち着いたもので、好感を持てた。一職工(前任ルーラ)を大統領に選んだ同じ国民の勇気が、初の女性大統領を誕生させたと国民に敬意を表し、すべての国民の大統領になると誓った。
 13回もルーラに触れたが、ルーラを演説の中心にしなかった。内容は網羅的で骨太、表現は分かり易い言葉で、簡潔な表現(外国人の私にも分かる)を用いた。
 即ち、政治改革、税制改革、成長と安定経済、農業、輸出、産業、財投、政府出費の質向上、科学、技術、環境、社会計画、貧困撲滅、安全、保健、教育、外交、プレサル、自由と民主主義、文化、及び腐敗の克服について言及した。
 例えば、「批判おおいに結構、何故なら、異見を戦わせることこそが民主主義発展の礎だから」「如何なることがあっても、インフレという雑草をはびこらせてはならない。何故なら、これこそが貧困家庭を苦しめる根源だから」「これからは差別、特権、縁故はなくなるだろう」「ブラジルは国民の福祉充実を国是としてきたので、社会的コストの増大をもたらした。今こそ、(政府支出の量的増大だけでなく)公的サービスの質的向上も又、求められている」等々である。
 軍との和解(軍政時代にDilmaは拷問を受けた)として、sem rancor(恨みナシ)と演説で述べ、大統領府入口に整列した軍隊の前に立ち止り頭を下げた。因みに、ポ語rancorは日本の文化人が好んで使う仏語ressentimentと同義語だ。
 この演説文は誰が書いたのか、興味津々だが、本人の手によるものではないだろうか?読上げるというよりは、話し掛けるという風に見受けられた。手堅い実務家との前評判だが、Dilma=Lula+知性+清潔となるか(Lula疲れの中で生まれた期待の星?)。確かに前政権最後の2年間は知性と清潔さに欠けていた。
 余談、①TV解説者は途中でDilmaが赤いドレスに衣替えすることあるべし、と裏情報を披瀝したが、白いドレスで通した。②ヒラリー米国務長官が別途会談を申込んだが、イタマラチ(伯外務省)が時間をとれないと断ったそうだ。ヒラリーは米伯関係の改善の機会を図りたい、と狙っていたのではないか、と想像する。

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