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イビウナ庵便り=中村勉の時事随筆=11年1月31日=技術進歩

ニッケイ新聞 2011年2月3日付け

 著しい技術進歩は、それについていけない者にとっては煩わしいだけだ。その技術が素晴らしければスバラシイ程、脱落者には余計に辛くなる。社会の脱落者になったような気持にさえなる。IT技術の進歩は、人間生活を便利にした。電子マネー、インターネット・バンキング、電子メール、インターネット・ショッピング、航空券の予約・購入等々はコンピューターを駆使する者にとって便利この上ない。イビウナのような田舎で生活をしていても、大都会と変わらない便利な生活を享受できる。
 他方、IT脱落者は惨めだ。E-mailなら10分もかからないところ、町に一つしかない郵便局まで出掛け、長い行列に並び、郵便封筒を計量してもらい、切手を購入し、投函する。半日仕事だ。スローライフ(編註=ゆったりとした生活)がいいと慰めてはみるが、時間の無駄をした感は拭い切れない。遂に我々は技術の奴隷になってしまったのか?
 某航空会社の航空券は、旅行社経由で購入すると旅行社のコミッション分だけ割高になるので、直接購入することを勧められた。早速コンピューターに向い会社を検索し、航空券を求めようとした処、先ず当該航空会社の利用者会員になれという。その手続きに時間を取られた。何やかや辛抱強く画面に出る指示に従いクリックして、一日がかりで家内と私の会員番号とPin(暗証番号)を取った。翌日は、前日の酷使が祟ったのか、コンピューターは働いてくれなくなった。コンピューター屋さんや電話会社の助けを借りて、1ヶ月後やっとコンピューターの機嫌が直る始末だった。終わってみると、この航空会社の販売ソフトは木目細かく、微に入り細に入り配慮されていることが分かった。しかし、これ程のくどいプロセスを再度踏めと言われたら、御免被りたい。「これが技術の進歩というものか?」と考え込んでしまった。
 先週末のBBCとCNNはEgyptの民衆蜂起の映像を終日流し続けた。ジャスミン革命(チュニジア)に始まった北アフリカの民衆運動は中東・北アフリカの盟主エジプトに及んだ。この流れはIT技術の進歩がもたらしたものだ、と解説されている。技術の進歩は我々の生活を変え、政治の変革を促す。実に恐るべきは「技術進歩」。
 今後もIT進歩に食らいついていくか、この辺で諦めてスローライフで行くか、遅かれ早かれ決めねばならなくなった。それにしても、コンピューターは年々機能を高度化し、それに反比例して働きが緩慢になっていく。年寄りには、高度・多機能は不要だ。頑丈で、読み書き算盤、メール、インターネットの機能があれば充分だ。その程度の機械はないものだろうか。便利でも使え切れなければ無いも同然、故障が多過ぎては煩雑、PC不機嫌の原因が理解できねば対応不可、即ち、使い切れない。

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