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イビウナ庵便り=中村勉の時事随筆=11年5月9日=不思議

ニッケイ新聞 2011年5月11日付け

 去年の上海万博で日本館の出し物の目玉はバイオリンを弾く二足歩行のロボットだった。災害救助にも日本製ロボットが活躍(?)するTV映像を観たような記憶もあり、日本はロボット先進国だと信じ込んでいた。ところが、東日本大震災では和製ロボットの影も姿も見なかった。特に、放射能危険がある原発現場では当然ロボットが活躍するものと思っていたが、その道の専門家は、放射線がLSI(大規模集積回路)の誤作動を起すのでロボットは使えない、と言っていた。
 そうしているうちに、米国や仏国がロボットの提供を申し出ている、とメディアが報じた。米仏に出来てロボット大国を自負する日本に出来ないとは、これ如何に? と疑問を持ったが、日本の技術は口ほどになく、遅れているのだろうと諦めていた。ところが、日本ロボット学会など関連学術団体が4月4日に出した共同声明「東日本大震災と福島原子力災害への対策およびそれらの復興に対し国内外のロボット技術を早急に役立てるべく、日本ロボット技術関連団体は最先端のロボット技術とそれに関与する科学者・技術者を総動員する」を読んで、驚いた。
 誇りを傷つけられたにしては了見が狭い。遅れている者が負惜しみを言っている場合ではない、一刻も早く、先進国の米仏技術にお世話になればよいものを! そんな風に思った。しかし、よく調べてみるものだ。1999年JCOの東海村の臨界事故後の2000年に、日本は原子力災害ロボットの試作機を30億円かけて作ったが打ち切った。理由は「日本ではロボットが必要になる事態は起きないから」だった!? 「原発安全神話」の物凄さだ。思い込み恐るべし、「安全な科学的成果に万一の対策などは不要」と言うわけで、もはや狂信の域だ。
 原発のセールス・ポイントは(1)大量安定供給力、(2)クリーン・エネルギー、(3)安価の3点だった。それを支えたのは安全神話だった。フクシマがその神話を木端微塵に砕いた現在、(2)も(3)もなくなった。先週(06/05/2011)の菅首相の要請(中部電力浜岡原発全面運転停止)は安全神話崩壊表明だった、と観ることが出来る。今や残された拠り所は(1)だけなので、原発派は代替安定供給源の不在を強調する以外にない。環境問題(脱炭素)を取り上げ、(2)を想起せよと言う向きもあるが、放射線以上に汚い(dirty=unclean)ものがない故、徒労に終わるだろう。
 世間には、脱原発=「TVも冷蔵庫も洗濯機もパソコンも使えなくなる」という思い込みがあるが、日本政府は、今夏の電力需要ピーク時も省エネ、節電および電力各社間の融通で乗り切れる、と言う。電化過剰の日本の家庭にも節電の余地が大分ある、と思われている。20年程前、大橋巨泉が「そんなものは不要!」というTV番組をやっていた。再放送してはどうか。
 問題は、原子炉の廃棄だ。廃炉技術が確立されていないとすると、原子の火が燃尽きるまでは、むしろ運転停止の方が運転継続より危険は大きいのではないのか、と素人は心配だ。

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