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〜OBからの一筆啓上〜地震病になって思うこと=太田恒夫(元パウリスタ新聞記者、東京在住)

ニッケイ新聞 2011年5月19日付け

 東日本を襲った地震と津波による災害のひどさはブラジルでもテレビやインターネットを通して多くの人が見、聞き知ったはずである。
 日本でも同じこと、我々一般市民は現場を見ているわけではない。情報はすべて媒体を通して視聴者や読者に伝わる。ただ、日本では情報の媒体はNHKだけではない。
 民放も新聞も雑誌も数多くあるので、この二ヶ月は災害関連のニュースに振り回されたといっても過言ではない。余震も連日のようにあるので頭はいつもクラクラ、遂に医者から地震病(医学用語では下船病)との診断を下されてしまった。
 クラクラした頭でも気がついたのはニュースの中身が地震と津波による災害から福島の原発事故に重点が移っていることだ。桜が散り、青葉の季節になってもテレビの画面はあまり変わらない。
 瓦礫の除去や僅かながらも笑みを浮かべるようになった被災者の顔をテレビで見ることはあっても原発事故の実態は目に見えてこない。
 目に見えない放射能だから画像にならないという理屈はわからないでもないが原発事故に関しては戦時中の大本営発表を思い出させるのが気がかりだ。    
 原発の爆発状況はいまだにブラックボックスの中にあるといってよい。政府が報道管制をしいているという声すらある中、民放の一社が原発建屋周辺の惨状を地上数十メートルの地点から撮影した画像を流したことがある。
 「艦砲射撃をくらったかのような光景」という説明はあったがそのフォローはない。
 「原発事故は想定内」は今では常識となっているが、その常識を十年以上も前に論じた人がいる。その論文をインターネットでみつけたので以下拾い読みしてみよう。 書いた人は平井憲夫さん。福島原発建設時、日立の配管工事の監督として現場で働いた技能者。阪神大震災の翌年96年にこの論文を書き、97年死去。
 「素人が造る原発」—原発でも原子炉の中に針金が入っていたり、配管の中に工具を入れたまま管をつないでしまったり、いわゆるヒューマンエラーがあまりにも多すぎる。原発や高速道路の建設現場では作業者から検査官まで総素人によって造られているのでいつ大事故を起こしても不思議ではない。
 「名ばかりの検査・検査官」—技量のない検査官にまともな検査ができるわけはない。水戸で講演をした時、会場から科学技術庁の者だと名乗って発言する人がいた。
 「行政改革で半年前まで農林省で養蚕の指導をしていたとか、ハマチ養殖の指導をしていたような人が今、原発の検査官をやっている。恥ずかしい話だがこれは本当だ」
 この平井論文の結論は「原発がある限り世界に本当の平和はない」にある。


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