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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年6月29日付け

 ブラジルには670万人の〃奴隷〃が残っていると書けば、「何をバカな。奴隷制は1888年に廃止された」と賢明な読者から怒られそうだ。でもエンプレガーダ(家政婦、家事労働者)の実態は奴隷制度の名残りに思えてならない▼労働者党全盛の現在においてすら、正規雇用が2割しかおらず、勤続保証基金(FGTS)や13カ月給与もない職業だからだ。その大半が北東出身者か黒人系という実態も、奴隷遺制という言葉に馴染む▼以前、サンバチームに通っていた時、知り合った女性はなぜかエンプレガーダばかりだった。「朝は家人が起きる前にカフェを用意し、深夜に夜食を作ってから寝る。住み込みの24時間労働にも関わらず、1最低給で残業手当なし、労働手帳なし」と聞いたときには驚いた▼精神障害児のいる仏人駐在員の家庭に勤める別の友人が、「子供が排泄物を垂れ流しながら歩けば、その後を追いながら拭いて回る。まるで犬のような生活よ」と自嘲した時には、慰めの言葉どころか涙が出そうだった▼地方部には農村労働者という男性版がある。農場経営者にとってはこっちの方が身近な存在だ。こちらは現政権以降、労働法遵守が滅法うるさくなり、昔のような使い方が難しくなっているとか。そのおかげでとんでもない訴訟を起こされた日系農場主も方々にいると聞く。ところが不思議なことに家政婦で同様の裁判はあまり聞かない▼国際労働機関(ILO)が16日に、家事労働者にも一般労働者と同等の権利を保障する基準を定めたとの報に接し、感慨深いものを覚えた。ただし、いつものことで法律はあくまで法律、実施は先のことだろう。(深)

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