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希望は自分で探すもの=ノーベル化学賞受賞者=鈴木章氏講演=約200人が耳かたむけ

ニッケイ新聞 2011年9月9日付け

 昨年、ノーベル化学賞を受賞した鈴木章・北海道大学名誉教授(81、北海道)の講演会『ノーベル化学賞への道』が文協、JICA、ブラジル北海道大学同窓会などの共催で4日、文協小講堂で開かれた。共催団体の各代表をはじめ、約200人の来場者が訪れ、受賞に至る経緯や、若者に向けた言葉を熱心に聴き入った。

 超満員の講堂には、非日系や若い世代の日系人の姿も多く見られ、鈴木氏が入場すると来場者は大きな拍手で迎えた。
 「開拓者精神を体現し、日系社会を築いた日系移民は我々北大の手本。お会いできて光栄」と挨拶、化学に興味を持ったきっかけから講演は始まった。
 「単純居士で、答えが一つしかない数学を学びたいと思い北大へ入学した」が、『有機化学』(L・フィーザー)、『ハイドロボレーション』(H・C・ブラウン)二冊に出会い、化学の道へ。
 「自然界でしか作れないものを人の手で創ることに憧れた」
 63年、ブラウン教授が在籍するパデュー大学へ留学。世界中から集まった研究者らが「安定しすぎて反応しづらい」と興味を持たなかった有機ホウ素化合物を「反応が安定しており、毒性も少ない」と逆に目をつけた。
 当時、この分野の研究は米、露、独のみ。帰国後、北大で研究を続け、様々な有機化合物の合成に成功。その一つ、79年に発表したクロスカップリング反応がノーベル賞に選ばれた。
 32年後の受賞の理由を「特許を取らなかったからでは」と見る。
 「特許申請に時間を費やしたくなかった」という研究一筋のスタイルが、一般に広く応用、実用化されることに繋がり、それが審査の対象にもなったからだ。
 「医薬品や農薬、液晶の製造などに使われおり、実は私の血圧を下げる薬にも使われています。研究の成果が広がることは嬉しい」と笑顔を見せる。
 「近年、『希望が見えない』といわれるが、将来の道や希望は、与えられるものではなく、自分で探すもの」と若い世代に激を飛ばし、「外国人の考えを知り、友人関係を通して視野を広げることができる」と国外に出ることも勧めた。
 質疑応答では子供時代について聞かれ、「新しいことを知るのが好き。釣りと野球に明け暮れた普通の子供だった」、原発事故に関して科学者のモラルについては、「悪用に協力する科学者もいた。危険性を知っているなら当然断るべきだ」と強い意志を語った。
 サンパウロ大学工学部の鈴本ヒルセンさん(18、四世)は「物を作る姿勢に共感。世の中にない新しいものを発見する研究をしたい」と刺激を受けた様子を見せた。
 農務大臣の補佐も務めた山中イジドロさん(76、二世)は「農薬にも教授が発見した反応が使われていることに驚いた。滞在をきっかけに日伯の科学分野での交流が増えてほしい」と語った。

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