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日本常民文化研究所セミナー=研究者5人が次々に講演=50人が熱心に耳傾ける

ニッケイ新聞 2011年9月24日付け

 サンパウロ総合大学との共同研究の糸口を探るために来伯した神奈川大学(横浜市)の研究機関、日本常民文化研究所の研究者5人が講演する公開セミナー「ひと・もの・くらし〜常民のみた日本〜」が8日晩、リベルダーデ区の文協ビル会議室で開催された。文協、サンパウロ総合大学日本文化研究所、人文研などが主催。約50人が訪れ、約2時間半に及んだ講演に耳を傾けた。

 まず佐野賢治所長が「日本常民文化研究所とは」と題して講演し、今回で来伯は3回目の橘川俊忠教授が登壇。「東日本大震災と現代日本社会」というテーマで、「復興に向けた被災地の活動状況をみると、家族よりも地域の方が結びつきが強いことがわかる」などと傾向をのべた。
 続いて津田良樹研究員が「日本古建築の空間特性」と題し、寺社仏閣を中心とした日本の古建築の特徴について講演した。伊勢神宮の心の御柱、大湯環状列石など「神との交歓の場」をもつ建物や、「水平方向に広がる」建物として四殿が横に並ぶ春日大社本殿などを写真で紹介。「時間と空間が交叉する建物」の例として厳島神社能舞台を挙げ、海に浮かぶ能舞台は周囲の海水の満ち引きで現れる空間が変わる、と説明した。また「左右非対称」の姫路城や、栗林公園麹月亭など屋根のみで柱だけが立ち、建物の内と外の境界がはっきりしない建物の例を挙げた。
 次に、安室知教授が「餅と日本人」というテーマで講演した。安室教授は「食べ物は民族を写す鏡」とした上で、日本は糯米を好む地域に含まれると説明。先に根菜農耕が発展した後に稲作が行われるようになったこの地域では、里芋などねばねばとした食感を好み、なかでも糯米を好んで食べるようになったという。現代では、粘り気のある食感を付加することで新たな商品として「餅」が生み出されるとし、モチ豚、モチ羊羹、きなこモチ、モチチョコなどの例を挙げた。
 最後に泉水英計准教授が登壇し、「南島の祭祀組織」について講演した。沖縄の祭祀空間である「御嶽」と、御嶽を中心とした祭場で祭りを司る「神女」について説明。草の冠を被り、樹木を持って年に30回ほど、普段は普通の生活を送る一般の女性が司祭を行っていることや、先祖の供養、死者儀礼、家庭内の祭祀などの占いをする巫女「ユタ」などを紹介した。

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