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亜国=クリスティーナ大統領=御再選おめでとう御座います=アンケートから勝因分析

ニッケイ新聞 2011年11月12日付け

 【らぷらた報知=3日付け】「圧倒的」と言うのが10月23日の公式大統領選挙の結果であった。
 が、これは予想されたことで問題はクリスティーナ・フェルナンデス大統領の再選が動かぬところとあっても去る8月14日に行われた次期大統領選挙の予行演習での得票数に変動があるかどうか、という点にあった。既に読者も御承知のことと思うが念のため記すと次の通りである(括弧内は予選の得票数)。
▼クリスティーナ53・96%(50・23%)
▼ビンネル16・87%(10・17%)
▼アルフォンシン11・15%(12・20%)
▼ロドリーゲス サア7・98%(8・16%)
▼ドゥアルデ5・89%(12・11%)
▼アルタミーラ2・31
%(2・46%)
▼カリオー1・84%(3・2%)
 右の数字が示す如く政府与党のクリスティーナは過半数で反対党は潰滅状態、いや〃無き〃に等しき存在と言ってもよい位である。僅かに社会党のビンネルがラジカル党のアルフォンシンに代わって二位になって喜んでいるが、一位のクリスティーナとの得票差が余りにもかけ離れているとあって自慢にはならない。ドゥアルデとカリオーに至ってはガタ落ちである。議会勢力も政府与党議員が大多数を取り戻したとあって12月からのアルゼンチン政界は政府の独壇場、しかもクリスティーナ・フェルナンデス大統領の〃事実上の独裁〃を許すこととなった。
 展望子に言わすればクリスティーナが「傑出していた」のではなく反対勢力に人材が欠けていたということである。
 2009年の立法議員選挙では勝機を掴んだものの「俺が、俺が」と争って離合集散を繰り返し敗者となった政府に勢力挽回を可能とさせた。
 2009年以来、今に至る迄の反政府陣営の動きを見ていると、何れも〃ドングリの背比べ〃で〃小異を捨てて大同に就かせる〃リーダーがいない。
 8月14日の予行演習(primarias)を待たずとも、その敗北は予見されていた。
 それに反し一時は支持率を表すアンケートの数字が最低に落ちたクリスティーナが人気を取り戻し天馬、空を行くが如き快勝を示したのは、一重に反政府陣営の無能とエゴセントリズムに負う所が多い。が、それだけではない。クリスティーナ自身の政治的成長を見逃すことは出来ない。
 こういうことを言ったらクリスティーナ大統領に対し甚だ失礼なことになるが夫ネストル・キルチネルを突然失った彼女の、妻としての家族的な悲しみは十分理解できるが、政治的観点に立ってみた場合、夫キルチネルの死は、彼女の政治的成長にとって逆に幸いしたのではないかと展望子は考えるものである。
 彼女は故ネストル・キルチネル前大統領の後継者として〃大統領〃の地位に就いたものの、実権は後見役のネストルが握り、彼女は大統領とは名ばかりの飾り物に過ぎなかった。夫のキルチネルとしては—これは展望子の想像だが—クリスティーナを大統領に据えて国政を左右し、彼女の任期が済んだら彼が次期大統領に、それが済んだらまた妻のクチスティーナを後継に据え実権を握るという〃キルチネル王朝〃の建設を狙っていた観がある。それが急死によって中断された。
 未亡人となったクリスティーナは相談役を失って総て自分の判断で政治を行わねばならぬ環境に追い込まれたというわけだが、それがかえって彼女を政治的に成長させることになったのである。
 夫の死後、彼女の採った戦術は〃沈黙〃と〃次期大統領予選〃であった。沈黙によって彼女の次期大統領再立候補は神秘に包まれ与党をも含め野党をも迷わせ反対党の選挙対策を誤まらせることになった。
 8月14日の〃大統領予選〃は彼女をして〃再選の可能性〃を的確に判断させる有力な資料となった。彼女としては、もし予選で負けるようなことになれば本格的選挙への出馬を取り止め恥を掻くことを避けられるが反対に予選で勝てば余裕しゃくしゃくとして本格的選挙に臨むことが出来ると考えたのではなかろうか。
 〃沈黙〃は本心をのぞかせない戦略であった。「敵を欺くには先ず味方から欺け」ということがある。政府閣僚でさえ、間際になるまで彼女の再立候補に就いて知らなかったのはこの格言を実行したことにある。
 日本の徳川家康が虎視眈々として機会を窺う狡猾な古狸であったとすればクリスティーナは差し詰め煮ても焼いても食えない女狐であったということか・・・。
 反政府陣営のお偉方より一枚上の〃役者〃であった。反対党の面々が「俺が、俺が」と争っているのを尻目にクリスティーナは着々と戦闘準備を進めていたのである。
 その意味ではクリスティーナ・フェルナンデスは帝政ロシアのエカテリーナ二世を思い出させるものがある。この分で行くとクリスティーナは〃大統領〃でなく〃事実上の女王〃となるかも知れない。それがアルゼンチンにとって幸いとなるか? 不幸となるか? は別問題である。何はともかく、クリスティーナさん、当選おめでとう御座居ます。(高)

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