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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年1月31日付け

 日本は狭く、鉄鉱や原油・天然ガスなどの資源もない。こうした工業資源を安く輸入し、精密で頑丈な製品に加工し世界の国々に売り捌き利益を得て暮らすという「輸出大国」が、国の基本だったし、経済界も命がけのセールス活動を繰り広げなんとか生きてきた。ところが、この「輸出大国」の看板が大地に叩きつけられ31年ぶりの貿易赤字になってしまった。これはもう「情ない」で済む話ではない▼歴史的な円高や大震災の影響が大きいし、欧州危機もあったけれども、やはり高い法人税や電気料などの問題も忘れてはいけない。このような厳しい客観情勢を直視した経済界は、すでに生産工場を海外に移している。三菱自動車は、あの世界戦略車「ミラージュ」をすべてタイで生産することを決めたし、日産はブラジルにも輸出している「マーチ」をやはりタイで製造し、日本にも逆輸入なのが現実なのである▼韓国や台湾に押され気味の電気業界にも「海外シフトはやむをえない」の考え方が広がる一方だし、この産業空洞化には国を挙げて取り組むしかあるまい。昨年の暮れに経済産業省は、「15年には貿易赤字に転落する」と指摘していたが、それが4年も早くなり11年度になってしまったのだから事は深刻である。それでも海外投資などの利子や配当などの所得収支はまだ黒字だが、市場では10年代後半には赤字になるの見通しが強い▼もし、この市場の見方が正確であり、経常収支が赤字になると、これはもう1千兆円とかの国の借金どころの話はない。ある財界人は「日本経済は転換点にある」と語るが、この指摘は耳に痛い。(遯)

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