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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年3月17日付け

 残暑が厳しく汗を拭いながらの日々だが、それでも朝と晩には冷え込みが強く、シャツだけでは肌寒くセーターが欲しくなる。編集局の近くを貫く東西線の路傍に咲く紫紺野牡丹の赤紫の花も夕日を受けて照り映え秋の訪れを告げている。蒼天には鰯雲がたなびき、涼風が肌に触れるのも気持ちがいい。稔りの秋。読書三昧とばかりに秋の夜長を友とする楽しみもまた格別というものである▼旧移民には懐かしいシネ・ニテロイがあった東洋街(昔は日本人街)の店頭には、あの日本の茶褐色の梨を惜しげもなく飾り道行く人々の味覚を誘っている。「豊水」と「幸水」らしいのだが、冷蔵庫で冷たくし表皮を剥いてのジューシーな美味は堪えられない。もうすぐ青森のリンゴ「富士」も店先にでんと座る。あれは故・後沢憲志博士が導入を決め栽培を指導したものであり、梨も柿にも日本から専門家が来伯しているのを忘れまい▼握り拳を二つ合わせたような大きな「富士」に齧り付いたときの感動は、将に秋をシンボライズするものだ。30年ほど昔のサンパウロには、こんなリンゴはなく、日本を想い起こしては残念がったものだが、今は堂々とした「富士」を手にブラジルの皆さんに「美味いだろう」と自慢したい。そして—赤い柿がやってくる。岐阜が原産の「富有」である▼天皇陛下とご一緒に来聖した皇后陛下が、確か6月だったかに栽培者から贈られたのを召し上がり「おいしい」と絶賛されたのエピソードがあり、本場よりも美味の評判なのである。栗もあるし日本の秋は、遠いブラジルの地にしっかりと根付いている。秋到来である。(遯)

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