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東日本大震災=蕎麦は〃人と人を繋ぐ〃=仙台・森浩一さんが講演=日伯友好連帯月間の一環

ニッケイ新聞 2012年3月20日付け

 蕎麦は〃絆〃の味——。蕎麦職人の森浩一さん(宮城、49)が15日、サンパウロ市ブルーツリーホテルで蕎麦打ちの実演や被災体験報告を行なった。「バラバラのそば粉が繋がり合って出来ることから、蕎麦は人と人を繋げる意味がある」と説く森さんは「世界中の人の支援に感謝したい。復興には時間がかかるが力を合わせて頑張る。見ていてほしい」との東北魂を示した。東日本大震災一周年を受け、在聖日本国総領事館と国際交流基金の共催による事業『日伯友好連帯月間』の一環。

 会場にはメディア関係者や著名人ら約120人が集まった。仙台市で居酒屋を経営する森さんは、過去2回ブラジルを訪問、精進料理を紹介した経験がある。
 被災したのは食材を仕入れに出かけた市場の中。「天井は落ちて壁にはヒビが入り、商品が転がり足の踏み場もない。しゃがみこんで長い揺れが収まるのを待った」
 店に帰るため外に出ると、車が落ち陥没した道路や崩れた家が見えた。停電し信号も止まり道は渋滞、人が何重にも並んで歩いていた。「まるで映画のようで怖かった」
 飲食店は残っていた食料をかき出して提供し、住民はわずかなカセットコンロやストーブを交代で使った。
 「当たり前のようだった。自分の力でやっていける日本人はすごい。誇りに思う」。ガス、水道が復旧した震災2カ月後、少しずつ経営を再開していったという。
 実演では真剣に作業に打ち込みながらも、生地を練ることを「つぶし」、空気を抜くことを「菊もみ」など専門用語を説明しながら蕎麦打ちを披露。
 生地を麺棒で四角に整形し、均一な厚さに切る見事な職人技に、会場からは感嘆の声が上がった。森さんは出来上がった蕎麦を見せ「手と手を繋いで頑張ろう」と呼びかけ、大きな拍手が送られた。
 参加者らは風味豊かな出来たて蕎麦の味を楽しみながら、「一つ一つの工程に心を込める日本の伝統料理法にも感心した」との声も聞かれた。
 イベント後、本紙の取材に対し、復興が強調される一方で「すごく苦労している人の所には、支援の手が全然届いていない」とも明かした。
 山側にある避難所は交通の便が悪く、高齢者や車のない住民は普段の買い物にも不便が続く。仮設住宅での隣人との繋がりは薄く高齢者の孤独死も目立つという。「せっかく助かったのに、希望を失ってしまう人も」と悲しみを隠さない。
 貧しい土地でも育つ蕎麦のように、被災者らは〃荒れ地〃となった被災地で協力し合い生きている。「手と手を繋いで頑張ろう」—。復興への道のりは続く。

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