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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年5月4日付け

 日本最西端の島である与那国島で数週間キャンプをしたことがある。魚を突いたり貝を採ったりして楽しみつつ時折、買い物に市街地に出た。島に一つしかない信号のある交差点界隈はガランとして人とほぼ会わない。文化的なものとの接触もなく少々人恋しくもなっていた▼照りつける日差しを避けようと入った影を作っている掲示板に「飛鳥来島歓迎会! 〇日午後×時、於小学校体育館」とあった。訳も分からず行ってみると、こんなに人がいたのかというほど島を挙げての大歓迎。関係者然として会場に入り、踊りや島唄の演奏を楽しんだ。地元物産販売もあり、泡盛「どなん」の古酒で桃源郷の世界に迷い込んだ▼その後継となる「飛鳥Ⅱ」がブラジルに寄航、ジャーナリストの日下野良武氏やブラジル音楽に造詣が深い坂尾英矩さんらが船内で講演を行なう。特に日下野さんは「移民やコロニアをしっかり伝えたい」と来社し意気込んで見せた▼ちなみに、日本に帰化して鬼怒鳴門となった日本文学研究家のドナルド・キーンさんや博覧強記で知られ、多くの顔を持つ荒俣宏さんらも講演するという。両者の話が聞け、寝食を数日でも共に出来るのは羨ましいばかり—と思いつつ『週刊新潮』(GW特集号)を開くと、国民的ドラマだった「渡る世間は鬼ばかり」の脚本家橋田壽賀子氏も乗船しているようだ。ちなみに氏のスイートルームは2千万円▼日下野さんが触れるであろう移民船のエピソードは同じ船上とはいえ、遠い遠いおとぎの世界の話に聞こえることだろう。かつて紺碧の沖合に浮かぶ豪華客船の幻想的な姿を蜃気楼のように見つめたことを思い出した。(剛)

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