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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年5月15日付け

 天皇、皇后両陛下があす16日に英国へ旅立たれる。エリザベス女王の即位60周年を祝う式典にご臨席になるためだが、恐らく陛下の胸中にはプレジデント・ウイルソン号で横浜港を出航した学生時代の思い出が沸き起こっているに違いない。あれは昭和28年3月30日だったが、アメリカとカナダを経てのロンドン到着である▼あの頃の日本はまだ貧しい。吉田茂首相が講和条約に調印し独立したのが昭和26年であり、「黄金週間」だからと行楽のために成田や羽田から40数万人が海外へと飛び立つ時代ではない。まだテレビもないが、それでも新聞やラジオが大きく報道し、山奥の寒村でも楽しい話題になりお年寄りらがお茶を飲みながら語り合ったのも懐かしい。皇太子の頃、英語や西欧の倫理と平和を教えたのはヴァイニング夫人だが、この影響は大きい▼皇太子はエリザベス女王と懇談されたが、そのときに—会話をリードするほど流暢かつ積極的な英語を披露され、高齢になり耳の遠くなったチャーチル元首相とお会いになると、顔を近づけてお話になり「孫が御祖父さんと会話しているような和やかさだった」と、外務省の公式記録は記している。この後、仏、スペインなどを歴訪したが、これが皇太子にはとてもよかったの評があるのも喜ばしい▼これだけは気掛かりなのだが、心臓バイパス手術のことであり、長い旅なので疲労もあるだろうから、ぜひご自重をとお願いしたい。まあ、皇后さまとテニスをなさるなど順調に回復していると信じ、英女王の即位60周年を祝い元気でお帰りをとお祈りしたい。(遯)

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